知財関連コラム

特許実務雑感53

 特許権の効力については、特許法第68条に、「特許権者は業として特許発明の実施をする権利を専有する」と規定されています。所謂、特許権者は自己の特許発明を独占排他的に実施する権利を有する根拠となる条文です。この条文から特許権侵害は「正当権原なき第三者が業として特許発明を実施すること」と導かれます。特許権の効力と侵害訴訟(民事裁判)の効力の相違といえば、前者が対世的効力を有するのに対し、後者が当事者間効力のみを有すると言えると思います。即ち、特許権は一旦成立すれば、その効力は広く第三者にも及ぶことを意味しています。特許権成立の過程を考えれば、出願内容が公開され、審査官の審査を経てかつ第三者による情報提供や異議申立の機会を潜り抜け発明公開の代償として成立することによると思われます。これに対して、侵害訴訟は、特許権侵害か非侵害かは原告と被告の当事者間の利益(私益)に関するものですから、当事者間のみにしか効力(既判力)は及びません。このため、特許権の範囲を広く取ろうとするあまり、抽象表現や曖昧な表現(機能的・作用的表現)で特定すると、その解釈をめぐって争いの種になることが多くなるものと思われます。審査で指摘される発明の明確性に関する記載要件で、特許請求の範囲に記載された発明の外延が不明であるとの指摘は、無限に広い解釈が成り立つような権利を阻止すべく、どこまでを権利範囲の射程と置いているかを明らかにする観点から設けられているともいえます。明細書のサポート要件として請求項にかかる発明が、明細書中に開示されていることを要求されるのは、発明開示の代償として独占権を付与する制度趣旨によります。

弁理士 平井 善博

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