特許実務雑感83
今回も特許化を阻止する制度の続きです。二つ目は、特許異議申立制度です。特許掲載公報発行の日から6か月以内に、特許要件違反について証拠を提出して特許処分の取り消しを申し立てる制後です。この制度は、公衆を審査に参加させて審査の適正化を図り、瑕疵ある特許の成立を防ぐという意図のもとに設けられています。よって、申立てには利害関係は不要で、何人も申立てが可能ですが、匿名の申し立てはできません。申立人がわかってしまうので、競合他社の特許に向かって異議申し立てをすると、利害関係を自ら告知するような側面もありますが、証拠について審査官の判断に誤認がある場合など、明らかな瑕疵については申し立てを行っても構わないと思われます。尚、実務経験上は、直接申立人の名前を出さずに、関係者の親族名や知人名義で提出した記憶はあります。申立の審理は審判手続きに準じて進められ、審理は3人または5人の審判官の合議体で行われ、書面審理を原則としています。申立があると権利者は、答弁書を提出する機会や権利範囲を訂正請求する機会が与えられます。この権利範囲の訂正に追い込むことで、権利内容が限定され、申立人や第三者の実施行為が権利侵害から逃れられる、という状態がこの制度の利用価値であると思われます。もちろん、権利がすべて取り消されればその方が良いのですが、複数の請求項が存在する場合には、いずれかが残る可能性が高いといえます。申立人は異議決定が下されるまで審理に関与できないとする以前の制度と異なるのは、申立人も審判官から意見を述べる機会を与えられる場合があるという点です。この点で無効審判と同様の当事者対立的な構造であるといえます。
弁理士 平井 善博