知財関連コラム

特許実務雑感37

 新規事項追加にならないように補正する場合、最も肝を冷やす場合があるのは、当初記載されていた構成要素や文言を削除する場合と思われます。なぜなら、構成要件や文言の削除は通常上位概念化であり拡張補正と考えられ、新規事項の追加ととらえられやすいからです。ちなみに欧州ではこのような補正は中間上位概念化といって認められない可能性が高いです。しかしながら、国内では、発明が解決しようする課題との関連で必要不可欠な要素でなければ、削除補正が認められるとの運用がなされているのが現状です。例えば成形型の型面の離型性を高める課題を提起している場合、「凹面状に形成された成形面の最表面に金属酸化膜を積層してなる成形型」という当初クレームがある場合に、補正で「成形面の最表面に金属酸化膜を積層してなる成形型」のように下線部を削除する補正が認められます。成形面の形状は付加的要素であり、課題の解決に直接関係しないというのがその理由です。発明が技術的課題を解決する手段であるが故の考え方であると思われます。但し最後の拒絶理由通知を受けた場合には構成要素の削除はできないので留意が必要です。特許請求の範囲を全面的に書き換える場合には、課題解決との関係で何が必須で何が付加的であるかという視点から構成要件を吟味して記載することが、不要な限定を避けて、より広い権利化を図るうえで重要と思われます。これを書いている筆者でさえ、過去を振り返ると、不要な限定補正をしてしまったと思われる苦い経験が多々あります。要は実施形態として、構成要件の多様な組み合わせ(ABACABC等)が段階的に記載されていることが重要であり、これは当初明細書の記載内容の充実度や記載内容の質にもよるのである。

弁理士 平井 善博

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