知財関連コラム

特許実務雑感66

 前回均等論でお話した第1要件(本質的部分)及び第5要件(特段の事情)について、参考となる最高裁判決を紹介します。事件名はマキサカルシトール事件(平成29324日最高裁判決)と言って、先発医薬品メーカーが後発医薬品メーカーの製品の製造販売の差止めを求めた事件です。この判決で(1)均等の第1要件について「特許発明の本質的な部分」とは「特許請求の範囲の記載のうち従来技術に見られない特有の技術思想を構成する特徴部分である」との見解が示されました。また、特許発明の本質部分の認定については、明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、特許発明の貢献の程度が大きい場合には上位概念化した広い範囲で認定され、特許発明の貢献の程度が大きくない場合には、特許請求の範囲の記載と同義の狭い範囲として認定されることが判示されました。(2)均等の第5要件について、特許請求の範囲の記載自体の解釈が問題となる場合について判示されています。出願人が出願時に他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことのみを理由として当該他の構成を特許請求の範囲に記載しなかったことが「特段の事情」には当たらない。しかしながら、例えば出願人が明細書において他の構成による発明について言及している場合、出願時に公表した論文等で他の構成による発明を記載している場合等、特許請求の範囲外の他の構成を代替要素として客観的に認識していたと認められるときには、当該他の構成を特許請求の範囲に記載しなかったのは、「特段の事情」に該当すると判示されました。代替技術に関する明細書の記載の仕方によって、権利範囲が狭く解釈される可能性があることを示唆しています。

弁理士 平井 善博

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