知財関連コラム

特許実務雑感62

 侵害論(侵害の成否)で対象製品が特許発明の構成要件に該当するか否か、所謂文言侵害に該当するか否かは、解釈の広狭により異なります。例えば、特許発明の構成に「アームが取付部に軸を中心に回転可能に組み付けられている」という構成があり、実施例には取付部にシャフトが設けられ、シャフトを中心にアームが回転するとします。対象製品が「アームの取付部が支柱の周りに環状空間部が設けられ、環状空間部に仕切りを設けて作動油が満たされいずれかの空間部に油圧をかけるとアームが支柱の周りをいずれかの方向に回転する」ものである場合、文言侵害が成立するでしょうか?軸と言うと中心線のまわりに回転する棒状の部材、即ちピン或いはシャフトのような軸をイメージしますが、これに限られるわけではありません。回転するもの(アーム)の中心にある支柱のような棒状の部分も回転しませんが、軸であることに変わりありません。また、特許発明の構成に「液体容器の底部に一体に取り付けられた超音波振動子」という文言がある場合、対象製品が水密容器に収納された超音波振動子である場合、容器に入れて使用すれば文言侵害になるでしょうか?権利者は「液体容器の底部」の「底部」の解釈は、底板のみならず底板近傍の空間部も含むと主張したとします。しかしながら、実施例は、底板に超音波振動子が固定されている構成のみ開示され、意見書には底部とは言わずに超音波振動子は底板に固定されていると主張しているとします。「底部」は辞書的な意味を言えば、底の方の部分という、曖昧な概念を引き出しますが、明細書や図面にはそのような開示がなく、しかも意見書で底部は底板として反論していたとすれば、権利者の解釈は広きに過ぎます。

弁理士 平井 善博

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