知財関連コラム

ビジネスに役立つ商標  商標「ゴッホ」

 A社は、「ゴッホ」の文字を、「紙類、文房具類」を指定商品として商標登録出願しました。
 特許庁の審査では、本件商標は世界的に著名なオランダの画家である「Vincent van Gogh」の著名な略称であり、死後ゴッホ美術館が設立され、我が国も含め、世界中でゴッホの絵画を展示するゴッホ展等が開催されている実情があることから、故ゴッホは、少なくとも我が国及びオランダにおいて、広く親しまれ敬愛されている人物ということができる。してみれば、故ゴッホの子孫あるいは、同人を顕彰する団体等と何ら関係のない出願人が、本願商標をその指定商品について登録することは、故ゴッホの著名な略称をもって、その名声に便乗し、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、故ゴッホの名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあることを理由に本件商標出願を拒絶しました。
 A社は、拒絶査定不服審判を請求し、「ゴッホ」の商標を60年以上もの長きにわたって誠実に使用し、取引業者との間での混乱なく長年良好な商取引を継続している事実があり、このことは歴史上の名称を使用した公益的な施策等に便乗したことがなく、公益的な施策等の遂行を阻害したこともないことを裏付けるものであるから、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図ではないと主張しました。
 しかし、特許庁ではA社のこのような主張を退けて、審査における結論と同じ理由で拒絶しました。このように長く使用してきたものであっても、拒絶される可能性があることは留意すべきです。

弁理士 傳田 正彦

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