知財関連コラム

特許実務雑感50

 今回は、審査の過程で起こり得る引用発明の認定を誤る典型例について、(1)一部抽出型(2)上位概念抽出型(3)後知恵型(4)他の記載参酌型の4タイプを例示します。(1)一部抽出型は、引用発明から本願発明の構成と一致点となる構成だけを抽出して引用発明を認定すること、具体的には引用発明にA+bの構成が記載されている場合に、bを除外してaを引用発明として認定する場合です。引用発明には本願発明の技術的思想が開示されているか問われており、これを無視して恣意的に引用発明を認定することは許されません(知財高判h18(行ケ)10138号判決)。一部抽出する可否は、当該一部の構成が技術的に独立した機能があるか否かがメルクマールとなります。(2)上位概念抽出型は、上位概念A(例えば弾性部材)の下位概念をA1(例えばゴム),A2(例えばバネ)とすると、本願発明がX+A1、引用発明がX+A2である場合に、両者の一致点をX+A、相違点をA1とA2と認定する場合です。これは通常審査で常用されており、本願発明と引用発明は上位概念である構成X+Aは共通でありますが構成A1を構成A2と同一ないしは容易想到と結論付けるにはそれなりの理由を要します。(3)後知恵型は、引用文献に記載されていない内容を出願に記載されていると読み込んで認定する場合や引用文献の記載に反して引用文献を認定する場合がこれに相当します。(4)他の記載参酌型は、引用文献の特定箇所に記載された事項にのみ基づいて引用発明を認定し、引用文献全体に記載された事項を看過してしまった結果、引用発明の認定を誤る場合です。引用文献には複数実施例が記載されていることが多く、全体の記載を参酌して引用発明を認定すべきです。

弁理士 平井 善博

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