知財関連コラム

特許実務雑感68

 損害賠償請求の判断基準に関する注目すべき知財判決(知財高裁H31年(ネ)10003)についてご紹介します。特許法1021:民法709条に基づき逸失利益の損害賠償を求める際の算定規定です。侵害行為がなければ販売できた物とは、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足り必ずしも特許発明の実施品に限られない旨が判示されています。また、単位数量当たりの利益の額は、売上高から製造販売に追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益)であり主張立証責任は特許権者にあり、特許権者等が販売することができない事情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情であり、侵害者が主張立証責任を負うことが判示されました。特許法1022:侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として侵害者が受けた利益全額と推定され、侵害者が、利益の一部または全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合にその限度で推定が覆滅されることが判示されました。因果関係を阻害する事情には、市場の非同一性、競合品の存在、侵害者の営業努力、侵害品の性能等があります。特許法1023:特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、侵害品の売上高に実施に対して受けるべき料率を乗じて算定すべきことが判示されています。実施料率は、実施許諾契約における実施料率、実施料の相場、特許発明の代替可能性、特許発明を製品に用いた場合の売上への貢献度等を総合考慮して決定されます。特許発明の特徴部分が権利者製品の一部であっても、権利者製品の販売によって得られる限界利益が逸失利益と推定されることには注目すべきでしょう。

弁理士 平井 善博

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