特許実務雑感86
この業界に入って30年以上になりますが、いまだに記載要件に悩むことがあります。要は、発明の捉え方について、如何にして発明を特定するかに関することです。私が駈け出しのころ、中間処理を任されて、紙容器に関する出願について拒絶対応を依頼された時のことです。拒絶理由は、発明の構成が不明確であるとの指摘に対して補正案を作成しました。当初の特許請求の範囲には「矩形の底板の周囲に透明窓を有する側板が各々連結され一の側板に開口部が形成された天板が連結してなる収納容器」というように、紙容器をブランク板が展開された状態で形態が特定されていました。発明の効果は、容器内部の視認性が良く、しかも開口する天板より出し入れが可能あり、ディスプレイと収納容器を兼用する、というものであったとします。このような作用効果は、容器を展開したブランク板の状態で期待できるでしょうか?もちろん、ブランク板の展開状態で記載しても、同じ容器である以上、何が不明確なのですか?と反論したくなる気持ちもわかります。しかしながら、発明としては、完成状態、すなわち技術的効果を奏する状態で特定する必要があります。収納容器を組み立てる前の状態でどうして所期の作用効果が得られますか?ただし、発明の特定の仕方は、ブランク板の展開状態のほうが記載しやすく容易であることは言うまでもありません。発明の完成状態、即ち、立体形状を特定するのは、平面形状に比べて一般に表現の難易度が上がりハードルが高い作業になります。しかしながら、形あるものを適切な言葉で特定して権利化することも代理人に課された使命であると肝に銘じてほしい。
弁理士 平井 善博