知財関連コラム

特許実務雑感61

 特許権侵害訴訟で先ず議論するのが、侵害論(侵害の成否についての議論)です。侵害論に次いで議論されるのが損害論(損害額がいくらであるかについての議論)です。従って、侵害論を主張立証することなく損害論に進むことはないと考えられます。蓋し、侵害が発生していないのに損害の発生は観念できないことによります。侵害論を始める場合、所謂演繹法による三段論法が良く用いられます。大前提(法律)があって小前提(事実)がありこれらの当てはめを行って結論を導くというやり方です。例えば、動物には寿命がある、という大前提のもと、犬は動物である、という小前提がある場合、犬には寿命があるという、結論を導き出す論法である。これを特許権侵害に適用するとどうなるかと言うと、被疑者の行為が、特許発明の実施に該当するか否かが中心となる。物の発明の場合、A++Cを備えた特許発明Xが存在する場合、被疑侵害者が生産販売等している製品Yを侵害品というためには製品Yの構成要素a++cが、上記A++Cに当てはまるか否かにかかっている。この場合、対比関係を容易にするため、なるべく特許発明Xの特許請求の範囲に用いられている文言を使用して製品Yについても対比説明することが推奨されています。これをいい加減にすると、極めて心証が悪いうえに、当てはめが困難になる場合があります。私が経験した訴訟の中でも、「液体容器の底部に超音波振動子が設けられている霧発生装置」という権利内容に対して、被疑者製品に液体容器が存在しないにも関わらず直接侵害を主張されたケースがありました。このような杜撰な訴状は、当事者を混乱させるだけで、時間と労力の無駄になりますから、気を付けたいものです。

弁理士 平井 善博

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