セミナー開催情報

内容

昨年10月、TPPの具体的内容が大筋合意に達しました。TPPとは、Trans-Pacific Partnership(環太平洋パートナーシップ)の頭文字をとったものであり、オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシ コ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,米国,ベトナムの12か国で交渉が進められてきました。

  TPPでは、貿易の自由化、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど様々な分野での協力、幅広い経済関係の強化を目的としております。

  TPPにおける知的財産とは、商標、地理的表示、特許、意匠、著作権、開示されていない情報等です。TPPでは、知的財産についてWTO協定の一部である 「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を上回る水準の保護と、知的財産権の行使(民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置 等)について規定しています。
以下に知的財産に関する特徴点の概要を記します。

〇 医薬品の知的財産保護を強化する制度の導入
① 特許期間延長制度(販売承認の手続の結果による効果的な特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するために特許期間の調整を認める制度)
② 新薬のデータ保護期間に係るルールの構築。
③ 特許リンケージ制度(後発医薬品承認時に有効特許を考慮する仕組み)

〇 商標
①商標権の取得の円滑化:国際的な商標の一括出願を規定した標章の国際登録を定めるマドリッド協定議定書(マレーシア、カナダ、ペルー等が未締結)又は商 標出願手続の国際的な制度調和と簡略化を図るためのシンガポール商標法条約(マレーシア、カナダ、ペルー、メキシコ等が未締結)の締結を義務付け。
②商標の不正使用について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。

〇 特許
①特許期間延長制度(出願から5年、審査請求から3年を超過した特許出願の権利化までに生じた不合理な遅滞につき、特許期間の延長を認める制度)の導入の義務付け。
②新規性喪失の例外規定(特許出願前に自ら発明を公表した場合等に、公表日から12月以内にその者がした特許出願に係る発明は、その公表によって新規性等が否定されないとする規定)の導入を義務付け。

〇 著作権
① 著作物(映画を含む)、実演又はレコードの保護期間を以下の通りとする。
 (1) 自然人の生存期間に基づき計算される場合には、著作者の生存期間及び著作者の死から少なくとも70年
 (2)自然人の生存期間に基づき計算されない場合には、次のいずれかの期間
   (i) 当該著作物、実演又はレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の年の終わりから少なくとも70年
   (ii) 当該著作物、実演又はレコードの創作から一定期間内に権利者の許諾 を得た公表が行われない場合には、当該著作物、実演又はレコードの創作の年の終わりから少なくとも70年
②故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。
③著作権等の侵害について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。

これらTPPの規定が発効され国内法に適用されることによって、マドプロ出願がしやすくなるなどのメリットがあると思います。

また、新規性喪失の例外規定の期間が12か月になることは、国内出願又はTPP加盟国への出願についてだけ考えるとメリットはありますが、TPP加盟国以外の国で新規性喪失の例外規定を認めている国は少ないですから、TPP加盟国以外の国に特許出願する場合には注意が必要です。
さらに著作権においては、著作権者への保護がより手厚くなったといえるでしょう。

–Masahiko Denda

内容

平成28年4月1日付で改正特許法が施行されます。
主な改正事項は2つあり、1つ目は職務発明規定(特許法35条)の改正であり、2つ目は特許法条約(PLT)実施のための改正です。

(1)職務発明規定の改正
従前より、特許を受ける権利は発明完成と同時に発生し、発明者に帰属するのが原則(特許法29条1項柱書)です。
例外として、職務発明に該当する場合には、従業者等(発明者)は使用者等に予約承継(譲渡)することができ、この場合、従業者等(発明者)は、対価請求権が認められていました(原始従業者帰属)。

この職務発明規定を、本年4月1日以降は、社内規定を改変することで、使用者等の選択によって、特許を受ける権利を原始的に使用者等に帰属させられるように変更されます(原始使用者帰属)。
また、使用者等が特許を受ける権利を取得する場合には、従業者に相当の経済上の利益を受ける権利が認められます。経済上の利益の例としては、
1)社費による留学
2)ストックオプション(株式購入権)付与・金銭的処遇の向上を伴う昇進、昇格
3)法定日数を超える有休休暇
4)自らの発明について会社からライセンスの供与等が例示されています。

更に、従業者が受ける相当の経済上の利益を定める手続きの合理性を判断するために考慮すべき事情につき、経済産業大臣が定める指針(ガイドライン)として以下の項目が挙げられています。
・使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況
・策定された基準の開示の状況
・相当の経済上の利益の内容の決定について従業者等からの意見の聴取の状況

改正法施行後は、従来法のように原始従業者帰属とするのか、改正法のように原始使用者帰属とするのか、いずれかを選択できるようになります。この場合、社内規定の改定を伴いますから、各社において、いずれが好ましいか判断を委ねられることになります。選択に際して特に考慮すべき事項は以下のように考えられます。
1)会社特許管理負担(発明者補償手続、訴訟リスク)の大きさ
2)発明者から会社への特許を受ける権利の譲渡手続、共同発明者による特許を受ける権利の会社譲渡への同意手続をどのようにとらえるか

改正法のメリットは、特許を受ける権利の帰属に関する事後的な争いが減るということだろうと思われます。会社への譲渡や共同発明者の同意などが得られていない場合には、権利に瑕疵が発生するおそれがあります。但し、発明完成と同時に特許を受ける権利が会社に帰属するわけですから、従業者等のモチベーションを高く維持しないと会社の競争力を削ぐことにつながります。社内規定が原始従業者帰属か原始使用者帰属のいずれを選択するにせよ、経済産業大臣が定める指針(ガイドライン)に沿って手続きの合理性を判断されるわけですから、これを見直す機会ととらえるのがよろしいかと思われます。

(2)特許法条約(PLT)実施のための規定の整備
我が国が特許法条約(PLT)に加盟したために、条約を遵守するための国内法の改正になります。
1)指定期間(特5条1項)の延長(準実2条の5,1項) *拒絶理由通知に対する意見書・補正書提出期間:期間延長請求書の提出により省令で定める期間延長される
2)外国語書面出願の翻訳文提出期間(優先日から1年4月+省令で定める期間)
3)パリ条約による優先権主張手続(優先日から1年4月+省令で定める期間)
4)特許管理人の選任の届出(国内処理基準時の属する日後省令で定める期間)
5)特許出願の日の認定及び手続補完制度の創設
 ①出願を意図する表示
 ②出願人を特定することができる表示
 ③明細書と外見上認められる部分があること
以上①~③を満たした場合には、出願受理日を出願日と認定(特38条の2,1項)いずれかが充足されない場合には特許庁長官が期間を指定して補完できる旨を通知、手続補完書を提出⇒手続補完書受理日を出願日に認定
6)特許料等の改定 特許出願料・特許料一律10%引き下げ
商標設定登録料25%引き下げ
更新登録料20%引き下げ

上記項目のうち、1)拒絶理由通知に対する意見書・補正書提出期間が、理由の如何を問わず期間延長請求書の提出で伸びるのは、実務上メリットが大きいと思われます。但し、手数料の支払いを伴いますから、これに安易に頼るのは、避けるべきでしょう。
また、6)特許料等の支払い期限がH28年4月1日以降となる場合には、納付を4月1日以降とする方が安価な手続き費用で支払うことができます。

–Yoshihiro Hirai

内容

昨今、企業の秘密情報(以下「営業秘密」と言います)の漏洩に関する大きな事件が度々報道されています。例えば、新日本製鐵(現新日鐵住金)の鋼板製造技術が韓国の企業へ流出し、さらに、中国の企業へ流出したことで発覚した事件がありました。また、ベネッセコーポレーションの通信教育の顧客データが3000万件以流出した事件もありました。

このような事件に鑑み、国としても、不正競争防止法の改正を行うこと等によって営業秘密保護の実効性を高める対策を講じました。
ここで、不正競争防止法の平成27年改正の主だった点について簡単に触れておきます。

・「技術上の秘密(例えば生産方法)を取得した者がその秘密の使用(例えば生産)により生じた物を譲渡(例えば販売)等する行為」が不正競争行為(2条1項10号)として追加されました。

・また、技術上の秘密を使用した行為を推定して、立証責任の転換を図る規定も設けられました(5条の2)。ただし、現状の政令指定では、技術上の秘密は「生産方法」であり、使用する行為は「生産」に限定されています。

・また、差し止め請求等を行うことのできる時効が10年から20年に延長されました(15条)。

・さらに、前述の海外流出事件を踏まえ、「海外重課」が導入されました。具体的には、日本国外で使用する目的での不正競争行為に対して、罰金刑が1000万円から3000万円に引き上げられました(21条)。

・その他にも、刑事罰の強化として、未遂罪の導入、非親告罪化等が行われました(21条)。

一方、企業はハード、ソフト両面において様々な対策を講じています。しかしながら、「営業秘密」という無体の情報を扱うが故に、完璧を期すことが難しい面もあります。
特に、製造技術のような「ノウハウ」を如何に保護するかという点は、製造業の企業にとって、最重要課題の一つです。
弊所では、これまで培ったノウハウ保護の手法をご紹介できますので、ご関心のある方はご一報頂けたらと思います。

–Takashi Okamura

内容

特許出願した発明が特許権となるか否かは、特許庁の審査官によって審査される必要があります。
しかし、日本の特許法は、特許出願を行えば審査が自動的に開始される制度を採用しておらず、審査を希望する出願人の請求を待って審査が開始される制度(出願審査請求制度といいます)を採用しております。

これには、費用を掛けてまで権利取得が必要か否かを判断する期間(出願日から3年以内:この期間が経過すると出願審査請求できなくなります)が出願人に与えられ、また審査対象の選別により特許庁の審査負担を軽減させるという狙いがあります。
通常、出願審査請求の手数料(印紙代)ですが、
 ・118,000円+請求項の数×4,000円
となります。例えば、請求項の数が1つですと、122,200円(118,000円+1×4,000円)となります。

この出願審査請求の手数料ですが、小規模企業等であれば出願審査請求の手数料が軽減されます。具体的には、産業競争力強化法に基づく特許料等の軽減措置を受けることで、1/3に軽減されます。例えば、先の請求項の数が1つですと、40,660円となります(10円未満切り捨て)。なお、この軽減措置は、出願審査請求の他にも特許料、国際出願の調査手数料等も軽減される場合があります。
軽減を受けられる対象者は、以下の小規模企業等になります。
 a.小規模の個人事業主(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))
 b.事業開始後10年未満の個人事業主
 c.小規模企業(法人)(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))
 d.設立後10年未満で資本金3億円以下の法人
 ※c及びdについては、支配法人のいる場合を除きます。
その他、必要な手続をする必要がございます。

出願審査請求に掛かる費用負担がかなり軽減されますので、小規模企業等で特許出願されている方、これから特許出願される方は、ぜひ活用されてはいかがでしょうか。弊所でも軽減措置の手続のお手伝いさせていただき、軽減措置を受けたクライアント様もいらっしゃいます。なお、平成30年3月までに出願審査請求を行う場合が軽減措置の対象となっておりますので、ご注意下さい。

小規模企業等対象の軽減措置の他にも、中小企業対象の外国出願支援事業補助金(平成28年度の募集期間:H28.4.25~H28.6.1)もございます。これらを利用した特許出願等にご関心のある方は弊所までお気軽にお問い合せ下さい。

–Atsushi Kurosaki

内容

日帰り入浴施設について用いられた「湯~とぴあ」という商標の商標権侵害事件について簡単に紹介します。
原告は、商標登録 第3112304号「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」を所有する入浴施設の運営企業です。

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被告は、静岡県の地方自治体であり商標登録第5692791号「湯~トピアかんなみ」を所有し、日帰り入浴施設「湯~トピアかんなみ」を運営しています。

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原告は、被告に対し使用差止と損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、東京地裁では使用差止と1234万円の損害賠償を認めました。
本判決については種々の論点がありますが、ここでは原告商標と被告標章が類似しているかどうかという類否判断についてのみ、簡単に説明します。
ちなみに、被告標章「湯~トピアかんなみ」も商標登録されているのですから、特許庁では、「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」と「湯~トピアかんなみ」とは非類似であると判断したわけです。

この点、東京地裁では、類否について次のように判断しました。

原告商標については、外観上、上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯~とぴあ」の部分とから成る結合商標と認められるが、その文字の色及び大きさの違い、その配置態様によって、一見して明瞭に区分して認識されるものであるから、これらの二つの部分は分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできないので、全体としての称呼、観念のほかに「湯~とぴあ」の部分から「ユートピア」の称呼と「理想的で快適な入浴施設」程度の観念が生じうる、としています。

被告標章については、上段の「湯~トピアかんなみ」の部分は一行で同様の文字でまとまりよく記載されているものの、黒色の「湯~トピア」と緑色の「かんなみ」の2つの部分によって構成されていることが容易に認識され、この二つの部分は分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできないと判断し、また前方の「湯~トピア」の部分は「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、出所識別標識として強い印象を与える部分であるということができるが、他方、後方の「かんなみ」の部分は、「函南」という地名若しくは町名を指していることは明らかであるから、入浴施設が所在し、その役務が提供される場所を表すものにすぎず、自他役務を識別する機能が弱いと判断しています。

そうすると「かんなみ」の部分は「湯~トピア」の部分と一体となって上記の称呼及び観念が生じ得るとしても「かんなみ」の部分それ自体からは独自の出所識別標識としての称呼及び観念を生じないというのが相当であり、したがって被告標章の上段部分からは、その全体に対応した称呼及び観念とは別に「湯~トピア」の部分に対応した「ユートピア」という称呼及び「理想的で快適な入浴施設」という程度の観念も生じる、としています。

つまり、被告商標の「湯~トピアかんなみ」は、「湯~トピア」と「かんなみ」に分離され、原告商標の「湯~とぴあ」と分離された被告標章「湯~トピア」とが比較されて、称呼及び観念が同一であるから、類似であるという結論に至ったわけです。

上記の裁判所の判断には、疑問を感じる部分もありますが、実際の類否判断においては、特許庁の判断と裁判所の判断が異なる場合もある、ということがおわかりいただけたかと思います。
なお、この判決を不服とした被告は控訴しました。またの機会に本事件の控訴審の判決を紹介したいと思います。

–Masahiko Denda

開催日:個別にお打ち合わせいたします
会場:講師がご指定の会場に伺います

知財戦略に関する社内セミナー「開発者のための知財セミナー(基礎編)」

内容

講師:弁理士 岡村 隆志 / 傳田 正彦
テーマ:
1)知的財産権の概要
2)他社特許の把握
3)日頃の業務の中にある知的財産権を見つける

参加費 内容・費用につきましては、ご相談を申し受けます。
開催日:個別にお打ち合わせいたします
会場:講師がご指定の会場に伺います

企業内「アイディア講座」

内容

ひらめき人間になろう【120分】
講師:弁理士 綿貫 隆夫
テーマ:アイデアはどこから生まれるか
1)基礎情報の学び方
2)固定概念を壊す
3)自分の頭で考える
4)ユーレカ(ヒラメキ)の瞬間
5)評価眼を養う

参加費 50,000円

内容

 今回から特許実務等に関する話題を取り上げて記載することになりました。尚、あくまでここで記載する内容は、私個人の見解であって、事務所や弁理士等の統一見解でないことは予めお断り申し上げておきます。

 私がこの業界に入ってから30年余り経過しようとしていますが、特許業界を取り巻く環境は激変している。出願内容の変化もさることながら、何といっても、特許・実用新案の国内出願件数がリーマンショック(2008年)前後で激減したことが挙げられる。大まかな数字ではあるが、今から十数年前くらいには、国内出願件数は40万件前後で推移していたと記憶している。ところが2008年以降は、大幅な減少に転じ、2015年の統計データを見ると31万8千件程まで落ち込んでいる。実に出願件数の約1/4が減少したことになる。弁理士登録者の総数が現在1万人程であるから、単純計算で代理人1人当たり年間30件ほどの出願依頼を受任できる計算となる。実に厳しい環境になったものである。
 国内出願件数が減少している一方で逆に増加しているのが外国出願である。日本のみならず外国出願を行っている出願が、国内出願の3割程になる。そうすると、年間9万件くらいが国内外に出願されており、トータルの出願件数はあまり変化がないとも言える。しかしながら、外国出願費用は主に現地代理人に支払われるため、国内代理人にとって厳しい環境に変わりはないのである。国内代理人にもグローバル化の荒波が押し寄せており、この荒波を泳ぎ切れる者のみが生き残れる時代となったと言える。

弁理士 平井 善博

内容

 商標といいますと、何年かおきに必ず話題となるような事件があります。去年は、PPAPの商標についてニュースなどで話題になりました。このように、商標については何かしらニュースになり、人々の間で話題になることもありますが、では商標とはどういうものか、ということについてはあまり正確に理解されていないように感じます。そこで、このシリーズでは、まず商標とは何か、ということから解説していきたいと思います。

 商標とは、商品又はサービスを識別するための標識、であります。標識がなければ、消費者からみると何を手がかりに購入すればよいのかわからなくなってしまいます。消費者だけでなく、卸、小売店においても販売する際の手がかりがなくなってしまいます。
 このように、商品又はサービスを識別する機能を有することが、商標として最も重要なポイントになります。
 したがいまして、商標は、標識として認識できるようなものでなくてはなりません。識別可能な標識として認識できるものであれば、視覚的に認識できる文字、記号、図形のいずれか又はこれらの組み合わせ、さらには立体的形状であってもよいということになっています。これらは、従来から商標として認められてきたものですが、平成27年の商標法改正により、動き、音、位置、ホログラム、色彩のみ、の商標も認められるようになりました。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:新しいビジネス方法を考えたのですが、特許権による保護を受けることはできるでしょうか?

A:一時期、世間で話題となった「ビジネスモデル特許」と呼ばれる特許があります。その言葉のイメージから、新しいビジネス方法は全て特許権の対象となるかのような印象を受けます。実際に、「新しいビジネス方法を考えたのだけど、特許権で保護して貰えないだろうか?」といった問合せを時々受けることがあります。

しかしながら、原則として「ビジネス方法」は特許法による保護対象であるところの「発明」には該当しないため、特許権を取得することはできません。なぜならば、特許法上の「発明」となるためには、前提として「自然法則」を利用していることが必要とされているためです。

つまり、一般的なビジネス方法自体は自然法則を利用するものではなく、自然法則ではない経済法則のみを利用している、あるいは単なる人為的な取決めであるため、特許法上の「発明」には該当しないこととなります。

したがって、新しいビジネス方法は全て特許権の対象となる、といった捉え方は正しくありません。

では、「ビジネスモデル特許」として特許権で保護されるのはどのような場合でしょうか。それは、コンピュータ・ソフトウェアによって新しいビジネス方法が実現されている場合です。そのようなビジネス方法は、自然法則を利用したアイディアに該当することとなるため、特許法上の「発明」として認められるのです。これがいわゆる「ビジネスモデル特許」です。


なお、特許庁のホームページにおいても、「ビジネス方法の特許について」として詳しく説明されていますので、是非、参考にして下さい。

弁理士 岡村 隆志

内容

 ご存知の方もおられるかもしれないが、弁理士として日本国内で活動するには日本弁理士会への登録が必要であり、弁理士の活動を規律する法律として弁理士法が存在する。いずれの弁理士も弁理士会が規定する所定の研修を5年毎に70単位以上取得することが免許更新の条件となっている。厳しい更新条件であるが、資格者としての中だるみを防ぎ、産業政策と共に法律や審査基準等が目まぐるしく変わる昨今では必要不可欠なのかもしれない。

 弁理士法第3条には、弁理士の果たすべき使命や職責等が規定されている。この中で、弁理士には3つの職責があると定められている。第1に品位保持義務、第2に法令及び実務精通義務、第3に公正かつ誠実に業務遂行義務を負うことが規定されている。これらの職責を全うしていると思われる弁理士はどれだけいるだろうか?手続きや料金等について説明責任を果たしていない者、利益相反まがいの行為で収益を上げている者等は品位を汚す者であることは多言を要しない。法改正についていけない者は完全NGであり、実務を全くしていない者もまたNGである。実務経験を数多く積み、必要なスキルを身に着け、時代の変化に対応できるやる気に満ちた弁理士こそが、クライアントのニーズに応えるものであると信じてやまないのである。先ごろインディ500のレースを40代で優勝された佐藤琢磨選手が、No Attack No chance!を座右の銘とされていた。40代で合格した私も自戒の意を込めて常に、No Challenge No success!をモットーとしたい。

弁理士 平井 善博

内容

 商標は使用すればするほど、有名になればなるほどその価値が増大します。例えば、コカ・コーラなどは、今更別の商標にして販売しようなどとは思わないでしょう。このように、すでに有名になった商標又は一定の認知度を得ている商標については、保護すべき財産的価値があると考えられるのです。
 ある程度有名になった商標に対しては、消費者はその商標を聞いただけで、その商品(食品の場合は)の味や品質などを思い浮かべることでしょう。あの商品はとてもおいしい、あるいは値段が手ごろで買いやすいなど。このように商標には、消費者の期待ともいうべき信用が化体します。商標法では、このような商標に化体した「業務上の信用」を保護するという目的があります。
 また、生産者や販売者にとって、消費者から得た商標の信用を裏切らないように努力することが期待されます。消費者に評価されている商品は、その信用を裏切らないように品質の向上などを図るようにしているはずです。一度評判が落ちた商品又はサービスの評判を挙げることは苦労が伴うことでしょう。
 このように、商標には、その商品又はサービスについて品質を保証するという重要な機能も存在します。前回の解説では、商品又はサービスを識別することが商標の重要な機能であると説明しましたが、品質保証機能もまた商標の重要な機能の一つになります。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:コンピュータを用いるビジネス方法は、全て発明として認められるでしょうか?

A:前回の知財Q&Aコーナーにおいて、コンピュータ・ソフトウェアによって新しいビジネス方法が実現されている場合には、自然法則を利用したアイディアに該当することとなり、特許法上の「発明」として認められ得ることに触れました。

ここで注意すべきは、コンピュータを用いるビジネス方法が全て特許法上の「発明」に該当する訳ではないということです。

確かに、コンピュータ・ソフトウェアによってビジネス方法を実現するような発明がいわゆるビジネスモデル発明なのですが、ただ単にコンピュータを用いているということだけでは、特許法上の「発明」としては保護されません。

例えば、「ダイレクトメール郵便による通信販売方法」は、元々「人為的な取決め」であって、技術的な創作ではないため、「発明」には該当しないのですが、ここで仮に、「郵便」を単に「コンピュータを用いた電子メール」に置き換えたというだけでは、やはり本質は変わらず「発明」にはならないのです。

特許庁における審査基準においては、コンピュータを用いるビジネス方法の審査に関して、その方法を実現するために、コンピュータのハードウェアとソフトウェアとが協働して、使用目的に応じた情報処理方法又はその動作方法が具体的に構築されている場合には、自然法則を利用した創作に該当し、「発明」と認められることが示されています。

このように、コンピュータを用いるビジネス方法が全て「発明」として認められる訳ではないのです。

(参考:特許庁審査基準)

弁理士 岡村 隆志

内容

 今回から、特許法そのものに軸足を移してお話することとする。クライアントさんから、新規に開発した発明品について特許出願のご依頼を頂く場合、異口同音として語られる言葉は「模倣品の発生を抑えたい」ということに尽きる。
 物の所有権について規律する法律は、民法なのだが、民法で扱う物は有体物に限られている。即ち、技術的アイデアは無体物であり、有体物のように占有することができない。無体物であるが故に、他人の開発した技術的アイデアを盗用して類似品を製造できてしまう。しかしながら、この行為を民法で取り締まることはできない。そこで、民法の特別法として特許法を含む産業財産権法が規定されている。
 特許法の存在を知っていた場合はもちろん、その存在を知らなくても、自社製品に対して他社保有の特許権の行使を受ける場合があり得るのである。そんなこと言われても特許なんてそうたやすく取れるものではない、と思われるかもしれない。
 しかしながら、開発者の多くが新製品を生み出す段階で何らかの創意工夫を行っているわけであり、それは技術的課題を解決する手段に他ならない。例えば、自ら提案する場合と相手先からの要望とを問わず、開発技術は従来品に比べて小型化、軽量化、低コスト化等様々テーマに取り組んだ結果である場合がほとんどである。これが発明そのものに他ならない。即ち、ある技術的課題を解決する手段としての製品や製法が発明そのものである。ただ、特許になるか否かは所定の要件をクリアしているか否かで決まるのである。
 IoT、AI、3Dプリント技術等、技術革新が目覚ましい今日、技術開発競争に乗り遅れることなく自社開発技術を第三者の模倣盗用から守りつつ、無形の会社の資産として保護するために、特許法を含む産業財産権制度の利用をお勧めする次第である。

 弁理士 平井 善博

内容

 商標を出願し登録しようとする場合、必ずその商標を使用する商品又はサービスを指定しなくてはなりません。商標権の権利範囲は、指定された商品又はサービス(及びこれらの類似範囲)の範囲になります。
 よくあるご相談で「いいネーミングを考えたので、商標登録したい」とのことで、実際にどういう商品にお使いになるか聞くと、「商品やサービスについてはこれから考える」、「商標登録出願に商品やサービスを指定しなくてはならないことは知らなかった」と仰せの方も多いです。
 商品やサービスを指定せずに、新しいネーミングだけで登録することはできません。これは前回解説した「商品やサービスの識別」「業務上の信用の保護」という商標制度の機能・目的に通じるものです。商標制度のもとでは、いくら新たなネーミングを創作したとしても、どの商品又はサービスに使用するかが明確でないと、それだけで商標として権利化できるものではないのです。
 また、いずれ説明しますが商品やサービスとの関係で登録できない商標というものも存在します。例えば、商品「時計」について商標「時計」、サービス「損害保険の引き受け」について商標「損保」などは商標登録できません。
 まずは、どのような商品又はサービスということがあって、その商品やサービスにはどのような商標がふさわしいか、ということでご検討されるべきだと思います。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:発明を公表してしまった場合には、特許は受けられないのでしょうか?

A:原則として、特許を受けることができません。特許の要件として公表されていないこと(「公知でない」と言います)が定められているからです。

しかしながら、以下の場合において例外が認められています。

(1)特許を受ける権利を有する者の意に反して公知になった場合

(2)特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった場合

例えば、(1)に該当する具体的事例として、秘密保持契約を締結して発明内容を開示したところ、契約に違反して公表されてしまった場合や、セキュリティーが脆弱で、情報が漏洩してしまった場合、等が挙げられます。

一方、(2)に該当する具体的事例として、学会や論文において発表してしまった場合や、自社ホームページや展示会で発明の実施品(製品)を紹介してしまった場合、等が挙げられます。

上記に該当する場合には、別途、特許庁へ手続をとることにより、公表してしまった発明についても特許を受けることが可能となります。これは、特許法第30条に「発明の新規性喪失の例外」規定として定められており、通称「30条適用」と言われているものです。ただし、公知になってから6ヶ月以内でないと適用が認められません。

このように、公知になってしまった発明が特許を受けられるように救済するための規定が設けられてはいるのですが、この規定は万能な訳ではありません。例えば、公表後に他人が先に出願をしてしまった場合には対抗することができませんし、あくまでも日本の法律なので外国での出願には適用されない、等のリスクは知っておく必要があります。やはり、発明を公表する前に出願を済ませることが大前提と考えて下さい。

弁理士 岡村 隆志

内容

 特許法上、第2条1項に発明の定義がなされており「自然法則を利用した技術的思想の創作であって高度のもの」と規定されている。わかり易く言いかえれば、自然界にある経験則に従ってある技術的課題を解決するために生み出された解決手段(技術的工夫)であって、高度と思われるもの、となる。
 例えば、「私は画商をしており、顧客から絶大な信用があり私に一定期間で絵を預けて頂ければ必ず利子をつけてお返しします」、という取引方法を特許にできませんか?と問われたとする。これが特許法上の発明に該当するだろうか?こんなときには、上述した発明の定義が役に立つ。このアイデアに果たして自然法則の利用はあるだろうか?解決すべき技術的課題はなんだろうか?御存じの方も多いと思われるが、人為的取り決め(人と人との約束等)、ゲーム法則(的に当てたら〇点等)、経済法則(1年預金すると利息が〇%等)などのアイデア自体には独創性は認めても、自然法則の利用とは認められられない。
 また、技術とは似て非なるものに技量がある。よくいわれるのがプロレスの技のかけ方、プロ野球投手の変化球の投げ方等である。ダルビッシュ投手の投球フォームはまねることはできるが、同じ変化をする投球は一般的にはできない。人から人へ客観的に伝承できる技術とは一線を画する。このプロレス技をかけると相手に致命傷を与えて、勝利に導くことができる、などとストーリ性は十分であるが、残念ながら技術には該当しない。
 高度であると定義されているがあくまで主観の問題であり、これが特に問われることはない。発明であっても簡易な構成はありうるし、簡易な構成であるからといって登録されないというわけではない。あくまで先行技術との対比において決する問題である。

弁理士 平井 善博

内容

 最近Jアラートによる警報を聞くようになりました。Jアラートとは、全国瞬時警報システムのことであり、政府が国民に対して緊急の警報を伝達する場合に用いられるシステムの名称です。
 ちょっと気になってJアラートが商標登録出願されているかどうか調べてみました。やはりというか、某B社が出願人となって、「J-ALERT」(商願2017-023119)、「J・ALERT」(商願2017-037314)が出願されております。
 この某B社というのは、昨年商標「PPAP」を出願したことで話題になった会社です。「PPAP」はピコ太郎氏の動画(楽曲?)の名称ですが、これを先取り的にピコ太郎氏と無関係の某B社が商標登録出願していたことで、もし某B社の出願が登録になれば、今後ピコ太郎氏は「PPAP」という名称を使用できなくなるのではないか、という論調で報道されました。結果としては、エイベックス社が出願した「PPAP」の方が登録になっており、某B社の出願は登録になっておりません。
 この某B社のような行為は、そもそも自分では使用するつもりが無いのに商標登録をし、本当にこの商標を必要とする人に商標権を売る目的であると考えられます。特にこの某B社の出願は、現在非常に問題となっており、特許庁も対応について公表しております。特許庁HP:「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ」をご参照ください。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:展示会で特許出願予定の製品を展示してしまいました。その後、特許を受けることはできないのでしょうか?

A:前回の知財Q&Aコーナーにおいて、展示会で発明の実施品(製品)を展示してしまった場合には、原則として特許を受けることができないことに触れました。

この「展示会」に関して、もう少し詳しく説明しますと、例えば、社員のみを対象とする「社内展示会」のように、守秘義務を負う人のみが見ることができるものである場合には、その発明は「公に知られた状態(公知)」になっていないものとして、特許を受けることができる対象となります。

一方、守秘義務を負わない不特定の人が見ることができる一般的な展示会において展示した場合には、発明が「公知」になったとして特許を受けることができなくなってしまいます。なお、特許を受けるための一つの方法として、「発明の新規性喪失の例外」という救済規定(特許法第30条)の適用が考えられる点は、前回触れた通りです。

ところで、一般的な展示会において展示した場合には、全て「公知」に該当してしまうかといいうと、必ずしも全ての場合が該当するという訳ではありません。

実は、「公知」つまり「公然知られた状態」という場合の、「知られた」は「技術的に理解された」との意味であると解釈されています。したがって、展示はしていても、技術的に理解できる状態には無い場合、具体的な例として、機械の内部に特徴のある発明品についてその外形だけを見せた場合は、「公知」には該当しないとされますので、特許を受けることができる対象となります。

(参考文献:特許法概説/吉藤幸朔著)

弁理士 岡村 隆志

内容

 特許法上発明のカテゴリーは、経時的な要素を含まない物の発明と経時的な要素を含む方法の発明の2つに分かれるが、方法の発明は更に単純方法と物を生産する方法の発明の2つに分かれる。
 例えば半導体製造装置、記録装置といった○○装置に代表される物の発明、モータ駆動方法、ロボットアームの制御方法といった△△方法に代表される単純方法の発明、プリント基板の製造方法といった□□製造方法に代表される物の製造方法の発明である。
 解釈論として時を構成要素に含むか含まないかで物と方法の発明に分けているが、実際は明確に切り分けることは難しい。物の発明であっても時の要素が入りこむ余地は十分にある。例えば、成形品は溶融した樹脂等が特定の形状に固まったものであるが、最終的に固化した成形品の状態から見れば物の発明ととらえられるが、成形プロセスを含めた解釈をすれば成形方法或いは成形品の製造方法の発明にもなり得る。
 特許出願書類のなかで権利化を要求する発明を記載する書面として特許請求の範囲(通称:クレーム)がある。この特許請求の範囲の記載について、近年最高裁判例が示されて、プロダクトバイプロセスクレームに関する特許庁の審査基準が変更された。プロダクトバイプロセスクレームとは、物の製造方法によってその物を特定するクレームのことである。このプロダクトバイプロセスクレームの取り扱いについてはグレーゾーンが多い。発明自体は物の発明として記載されているが、その物の製法によって特定するクレームが記載されている場合、審査において不明瞭な記載であるとして拒絶理由通知が発せられる。この記載不備として扱う審査の取り扱いが、個人的には極めて不可解な部分が多いと感じるのである。

弁理士 平井 善博

内容

 自ら使用するつもりが無いのに商標登録出願した場合は、特許庁ではどのように審査されるでしょうか。
 前回の記事でお話した某B社のように、本来の事業範囲を超える大量の出願をするような場合は、出願人自らが使用するとは考えにくいので商標法3条1項柱書違反ということで拒絶されます。商標法3条1項柱書とは「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」という条項であり、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に該当しない、という判断がなされるということです。
 さらには、例えば医療業、弁護士業など、資格が無ければ業務ができない業務範囲について、その資格が無い者(又は法人)が出願する場合も商標法3条1項柱書違反に該当します。
 また、前回某B社によって「J-ALERT」が出願されているということもお話しましたが、これに対しては上記とは別の拒絶理由もあります。
 J-ALERTは、商標法4条1項7号「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する可能性があり、または商標法4条1項6号「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標」に該当する可能性もあります。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:特許と実用新案の違いを教えて下さい。

A:どちらも、「技術的なアイディア」を保護する権利である点では共通しているのですが、多くの相違点があります。

 例えば、権利期間をみますと、特許は出願から20年であるのに対し、実用新案は10年です。また、実用新案法では、保護対象となるアイディアが「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」に限定されていますので、特許法で保護される「方法」や「材料」あるいは「プログラム」等は実用新案の保護対象とはなりません。

 また、最も大きな相違点の一つと言えますのが、審査を行うか否かです。具体的には、特許制度では、発明の新規性(新しさ)や進歩性(容易に考え出せないこと)及び明細書の記載不備等の特許要件について、厳格に審査してから特許を付与する「審査制度」を採用しています。これに対して、実用新案制度では、早期登録の観点から出願人名の記載があるか等、形式的な審査のみを行って、新規性・進歩性等の実態的な内容の審査は行わない「無審査制度」を採用しています。

 このため、登録された実用新案が有効かどうかの判断は、別途、特許庁に対して「実用新案技術評価書」を請求して、その評価を見て有効性を判断しなくてはなりません。また、実用新案権を行使する場合には、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければなりません。特に、この提示やその他相当の注意をしないで警告や権利行使を行った後に、実用新案登録が無効になった場合には、警告や権利行使をしたことにより相手方に与えた損害を賠償する責めを負う場合がありますので、注意が必要です。なお、特許の場合には審査を経た上で登録されますので、実用新案のような制約はありません。

弁理士 岡村 隆志

内容

 特許請求の範囲に物の発明にも関わらずプロダクトバイプロセスクレームが記載されていた場合、拒絶理由通知が届くことは前回お話した通りである。
 その場合の対応について(1)該当する請求項の削除、(2)該当する請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正、(3)該当する請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする補正、(4)不可能・非実際的事情について意見書等による主張立証、以上の4つの対応が指南されている。これらのうち(1)~(3)の対応について格別な疑義がない。しかしながら、(4)の主張立証は疑問が残る。不可能・非実際的事情とは、出願時において物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったこと、又は特許出願の性質上迅速性等を必要とすることから鑑みて物の構造又は特性を特定することに著しく過大な経済的支出又は時間を要することに該当すること、が挙げられている。
 このような主張立証を意見書等で行うことで仮に特許されたとしても、その後に他人の正当権原なき実施行為対して権利行使できるのだろうか?権利行使する場合には、請求項に記載された発明と侵害者実施品の構成を対比し、すべての構成要素が含まれているか否か検証することが行われる。
 そもそも物の構造又は特性を特定できないものについてどのように侵害論を展開すべきなのか、個人的には甚だ疑問なのである。すべては最高裁判決の影響を受けてのことなのだが、プロダクトバイプロセスクレームについての権利解釈として画一的に物同一説を採用したことに起因すると思われる。即ち、製法的記載は無視し、あくまで物の構成として同一なら同一と判断する手法である。
 実は最高裁に上告される前の知財高裁での判決こそが、最も柔軟で無理のない解釈ではないか、というのが私の個人的な見解である。

弁理士 平井 善博

内容

 平成27年4月1日より施行された改正商標法により、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「音商標」、「位置商標」について登録可能となりました。これらを非伝統的商標という場合もあります。従来から登録可能だった商標は、伝統的商標とも呼ばれます。米国などの諸外国では非伝統的商標は、かなり前から登録可能でした。日本でもようやく諸外国との歩調を揃えたということになります。
 なお、伝統的商標では「視覚」によって認識できるものを登録の対象としてきましたが、今回新たに登録可能となった「音商標」は、「視覚」ではなく「聴覚」によって認識するものです。
 音商標の出願件数は543件、そのうち登録件数は146件です(平成29年7月31日時点)。登録例としては久光製薬株式会社のTVCMの最後に流れる「ヒサミツ」という社名をメロディーに合わせて歌っているもの等があります。登録例を見ますといずれもTVCMなどで聞いたことがあるフレーズが多いです。
 県内企業でも1件登録されました。やはりTVCMなどでおなじみのフレーズです。
 音商標の出願には、(1)音声データをMP3形式で提出すること、(2)五線譜又は文章による説明、の両方が必要となります。五線譜には、音符、音部記号、テンポ、拍子記号、言語的要素(歌詞が含まれる場合)が必要です。
音声データと五線譜が一致しているか等、音楽的に厳密な審査がなされます。

弁理士 傳田 正彦

内容

 最高裁に上告される前の知財高裁での判決は、真正プロダクトバイプロセスクレーム(物の構成や特性が特定できないもの)と不真正プロダクトバイプロセスクレーム(物の構成や特性が特定できるがあえて製法的記載を用いているもの)に分けて考えている。そして、真正プロダクトバイプロセスクレームについては、物同一説に従って物の構成で発明の同一性を判断し、不真正プロダクトバイプロセスクレームについては、物の構成として記載できるにもかかわらずあえて製法的記載で物を特定しているのであるから、その製法に特定された物の構成であると解釈して発明の同一性を判断する(製法限定説)というものである。個人的には、これが最も柔軟で無理のない解釈ではないかと思われるのである。プロダクトバイプロセスクレームの取り扱いは、国ごとにばらばらであり、発明の要旨認定(審査・審判の場面)では物同一説を採用するが、技術的範囲の確定(侵害訴訟)の場面では製法限定説を採用する国は多い。
 そもそも、特許請求の範囲の記載は、出願人が自らの判断で保護を求めようとする発明について決定する自由度を有しており、物の発明として保護を求めても製法の発明として保護を求めても自由なのである。この記載要件と審査・審判実務の取り扱いに齟齬が生じているのではないかと個人的には感じるのである。
 近年の知財高裁判決では、物の発明であるにも関わらずその製法が記載されていても、特許請求の範囲、明細書、図面等の記載からその物の構成が明らかな場合にはプロダクトバイプロセスクレームに該当しない、との判例が出されており、最高裁判決を過度に適用すべきでない旨の修正が図られている。

弁理士 平井 善博

内容

 先日、2年ぶりに北京に出張しました。以前よりも地下鉄の路線が増えているようですし、シェアサイクルの普及には驚きました。発展のスピードが非常に速いことが実感されました。ただし、私の中国の出張先はほとんど北京でして、北京以外の場所のことはよくわかりません。また久しぶりで忘れていたのですが、中国ではgooglegmailLINEなどは規制により使用できませんでした。
 さて、中国における商標出願件数は日本とはけた違いの件数になっています。2015年における日本特許庁への商標出願件数は、約14万7千件ですが、2015年における中国商標局への商標出願件数は287万6千件です。ちなみに2016年の中国商標出願件数はさらに増加し、387万件だそうです。
 中国では、商標出願は特許庁ではなく中国工商行政管理総局の下にある商標局が担当します。審判については商標局とは別組織の商標審判委員会で担当します。これだけの出願件数ですが、2014年の第3次改正法により、出願受理から9か月以内に審査を終了することになっています。審査の効率化が図られているということだと思います。
 また、中国で商標を登録しようとする場合、中国の商標弁理士に代理してもらうことになります。中国では、特許を取り扱う弁理士と、商標を取り扱う商標弁理士は別の資格です。中国全体の商標弁理士の数は非常に多いようですので、信頼できる中国商標弁理士を選ぶことが非常に重要です。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:既に特許出願をしてしまったのですが、後から改良した発明を追加することができますか?

A:基本発明の特許出願を行った後、開発を継続していく中で、改良発明が生まれてくるケースが多くありますが、その際に、最初の出願内容を手直しできないかとのご相談を受けることがあります。

 先ず、特許法では、出願した内容について「補正」を行う制度が設けられています。しかしながら、「補正」が認められる範囲は、最初に出願した明細書に記載された範囲内に限られています。そのため、後から改良した発明等のように新規の事項を、出願した後から、その明細書の中に追加するような「補正」は認められないこととなります。

 そこで、そのような場合には、「国内優先権」という制度を利用する方法が考えられます。この制度によれば、後から改良した発明を追加する等の対応が可能となります。

 ここで、「国内優先権制度」とは、基本的な発明を出願した後に、その発明と、後から改良を加えた発明とを包括的に1つにまとめて、新たな特許出願として提出することができる制度です。実際にこの制度を利用する出願においては、実施例の追加や、実験データの追加等を行うケースが多く見受けられます。

 このように、「国内優先権制度」を利用することにより、開発の進行に沿って順次得られる技術成果に対して、漏れのない形で権利化を図り、確実に保護することが可能となります。

 ただし、この制度を利用するに当たっては、最初の出願から1年以内に「優先権」主張をする出願(後の出願)を行わなければならない等の条件が定められていますので、その点は注意が必要です。

弁理士 岡村 隆志

内容

 物の発明にはプログラムも含まれる。制御ソフトや表計算等ソフトなどの場合、装置記憶部にインストールされるだけでなく、記録媒体に記憶させて取引されたり、通信回線を利用してダウンロードして利用されたりする取引形態が増えたことによる。もちろん、プログラムは制御手順を示すものである以上、方法の発明としても保護される。
 特に、コンピュータ端末とサーバーがインターネット等の通信回線により接続された出願において、双方が日本国内に存在するとは限らず、例えば外国に置いたサーバーを経由して通信するケースもある。この場合、例えばコンピュータ端末とサーバーが通信回線により接続された通信装置として権利化を図っても、日本国内ではコンピュータ端末のみを使用しているので、権利侵害行為の特定が困難になり、誰に対して権利行使をすればよいか難しい対応を迫られることになる。これに対して、通信方法の発明として権利化すれば、装置設備が国内にあろうがなかろうがその方法を使用している限り権利侵害となる。よって、端末使用者もサーバー事業者もその方法を使用する者であるので権利行使は可能である。
 また、過去にマスコミ等で取り上げられて話題となったビジネスモデル特許についても、最終的にはソフトウェアによる処理がハードウェア資源(演算部や記憶部等)の利用により実現されているか否かが産業上利用することができる発明に該当するか否かのポイントとなった。ビジネス手法そのものは、発明(特許法第2条1項)ではなく、単にインターネット等を利用したビジネス手法は発明であるが、社会インフラそのものであり権利化を図る社会的要請は存在せず、産業上利用することができる発明(特許法第29条1項柱書)に該当しないとの理由で拒絶されることが多い。

弁理士 平井 善博

内容

 中国における商標制度について、注意しなくてはならないことがいくつかあります。
 まず、日本では何らかの拒絶理由がある場合には拒絶理由通知が特許庁から届き、意見書の提出機会が与えられますが、中国の商標実務では拒絶理由通知が無く、いきなり拒絶査定になります。拒絶査定に対しては、拒絶査定不服審判を請求せざるを得ませんので、審判費用と時間がかかることになります。
 中国において、先登録の類似商標が存在することを理由に拒絶査定となった場合には、先登録の商標権者の同意を得れば登録が認められることがあります。同意書は、拒絶査定不服審判中に提出します。なお、このような同意書制度(コンセント制度ともいいます)は日本では認められておりません。
 また、先登録の商標権が少なくとも三年間不使用であれば、三年不使用取消審判によって取り消してしまう方策もよく用いられます。しかし、一昨年より、拒絶査定不服審判の審理期間が短縮化され、拒絶査定不服審判と三年不使用取消審判を同じ時期に請求した場合、三年不使用取消審判の結論が出る前(つまり先登録商標が取り消される前)に拒絶査定不服審判の結論が出てしまい、拒絶の結論が維持されてしまうようになってしまいました。
 したがいまして、中国での商標出願時に、先登録の類似商標が存在する場合には、なるべく早く三年不使用取消審判を請求して先登録の商標権を取り消してしまうことが必要です。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:ソフトウェアは著作権で保護されると聞いたことがあるのですが、特許権でも保護されるのですか?

A:ソフトウェアは「表現」としての側面と、「アイディア(思想)」としての側面を併せ持っています。したがって、「表現」の側面から著作権制度の保護対象となり得るのと同様に、「アイディア」の側面からは特許制度の保護対象となり得ます。

 しかし、二つの権利で保護されると言いながら、実はそれぞれの権利による保護形態は全く異なっています。具体的には、著作権では、主として「複製(コピー)」を禁止することによってソフトウェアを保護します。そのため、例えば他人がソフトウェアの解析によって、複製(コピー)ではなく、アイディアを抽出して模倣したような場合には、著作権による保護を受けることができません。

 これに対して、特許権では、ソフトウェアに具現化されたアイディアを保護します。したがって、著作権による保護と異なり、アイディアが抽出されて模倣された場合には、複製(コピー)であるか否かに関わらず、特許権によって保護することが可能です。

 ちなみに、特許制度は、あるアイディアを具体的に実現する専用装置等の発明を保護するものですが、専用装置を新たに開発しなくても、ソフトウェアの工夫により、汎用コンピュータ上で同等の結果を具体的に得られる場合があります。そこで、ソフトウェアを内蔵した装置のみならず、ソフトウェア単体についても特許権の保護対象に含めたという経緯があります。

 一方の著作権はあくまでも「表現」を保護するものですから、特許権の保護対象である「(技術的な)アイディア」を保護することはできないという点に注意が必要です。

 以上の考え方は、米国及び欧州においても基本的に同様です。

弁理士 岡村 隆志

内容

 今回から、特許を取得するための様々な要件についてお話しする。特許を受ける権利は、いつ発生するかといえば、発明を完成したときである。即ち、何らかの技術的課題を解決する手段を考え出したときに発明は生まれる。願書には発明者及び出願人を記載する必要がある。発明者は一人の場合もあるが、複数人で完成させ或いは会社同士アライアンスを行って共有となる場合もある。
 発明行為は自然人固有の能力の発揮の産物であると考えられ、特許を受ける権利は、発明者に原始的に帰属する。よって、多くの場合、発明者が特許を受ける権利を有しており、発明者及び出願人は同一となるケースが多いが、出願人は会社名(法人名)で行われることが多い。これは、従業者が有する特許を受ける権利を会社(法人)に譲渡した結果、会社が出願人となっているのである。この譲渡手続きが曖味になっているため紛争の種となるケースがある。有名なところでは青色発光ダイオードを発明された中村修二先生の裁判例がある。
 発明にはそれが生まれた背景から、以下の3つのカテゴリとして位置付けることができる。発明者が自由になした自由発明、会社に属する従業者がその業務範囲に属する発明をなした業務発明、業務発明であって研究開発を期待されている者が職務に基づいてなした職務発明、以上の3つが存在する。上記自由発明については基本的には発明者が出願人となる場合が多いが、業務発明や職務発明については社内規定(就業規則等)により会社に有償で譲渡すると規定されている場合もある。後の無用な紛争を避けるためには、職務発明規程を整備されることをお勧めする次第である。職務発明の場合、従業者の発明完成までに会社は資金提供や研究設備等の提供を通じて一定の貢献をしており、従業者が特許を取得しても会社は通常実施権を有する。

弁理士 平井 善博

内容

Q:IT技術を利用したもの以外にはビジネス関連発明はないのですか?米国などでは認められていると聞いたのですが。

A:確かに、米国においては「発明」について明示的に技術的要件を求めていませんが、同時に、抽象的なアイデアは特許にならないとしています。したがって、ITその他の技術を利用せずとも、この要件を満たすことができれば、米国において、ビジネス関連発明が特許される可能性は否定できません。

 続いて、我が国の場合を見てみますと、特許庁は、「発明」であるための要件として、特許法に規定される「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることを求めているものの、IT技術を利用した発明以外に、特許として成立し得るビジネス関連発明が存在する可能性を否定してはいません。

 しかしながら、現状ではIT技術を利用しないビジネス関連発明のほとんどは「人為的取決め」に該当すると考えられ、「発明」には該当しないこととなるため、実際には、IT技術を用いず、かつ、「発明」に該当するビジネス関連発明というのは、想定することが難しいと思われます。

 ちなみに、「発明」に該当しないとされる「人為的取決め」とはどのようなものかという点について、少し触れておきたいと思います。特許法解説の基本書として知られている吉藤幸朔著「特許法概説」において、「人為的取決め」とは「金融保険制度」、「課税方法」、「遊戯方法」等のように、人が仕組み(ルール)を決めることにより運用されている制度や方法が該当例として示されています。その他にも、野球やサッカー等、スポーツのルール等も「人為的取決め」に該当するものとして扱われます。

(参考文献:特許法概説/吉藤幸朔著)

弁理士 岡村 隆志

内容

 発明者が職務発明について会社に特許を受ける権利を譲渡した場合、金銭等経済上の利益(相当の利益)を受ける権利を有する。所謂、対価請求権を有する。この相当の利益の中身は、従来金銭によって支払われることが多いのであるが、昨年の法改正で会社ごとに独自に規定できるようになった。この改正法では、契約、勤務規則等により特許を受ける権利を発明完成時から、発明者ではなく、法人に帰属させることができるように改正されている。誤解されがちであるが、職務発明について、従来通り、特許を受ける権利は、原則発明者(従業者)に帰属するようにしたままでも、法上問題となることはない。
 改正の背景には、発明者に支払われる対価に不足分があれば会社に対して請求でき、会社は従業者や元従業者によって常に対価請求訴訟を起こされるリスクを負う。また、発明者が何千人、何万人といる会社規模になると、対価の支払いを案件ごとに時期をとらえて実績報償金として支払いを管理するのは、非常に負担が大きいという実情がある。
 また、A社従業員甲とB社従業員乙とが共同で職務発明を行って共同出願する場合、特許を受ける権利の譲渡手続が正当に行われていないという実態が存在する。甲からA社に特許を受ける権利の持分を譲渡する場合、乙の同意が必要であり、乙からB社に特許を受ける権利の持ち分を譲渡する場合、甲の同意が必要である。この同意を取り合う行為が実際は抜け落ちている場合が多い。これにより、A社とB社が共同出願人として出願を行っても、実際は特許を受ける権利の譲渡が適性に行われていないため、無効理由が存在することになるのである。

弁理士 平井 善博

内容

 以前より、家紋も商標登録の対象となってきました。有名なところでは「六文銭」の家紋があります。家紋について商標登録出願された場合であっても、指定された商品・役務に対して同一又は類似の商標が存在しなければ登録になっていました。すなわち、使用したい商品・役務において誰も登録していなければ早い者勝ちで登録可能であったのです。ただし、菊花紋章、葵紋は登録不可でした。
 しかし、一昨年より、有名な家紋については菊花紋章、葵紋以外の家紋も拒絶されるようになりました。例えば、「六文銭」、「結び雁金」等が拒絶されています。
 そして、今年の4/1より審査便覧が改訂され、家紋についての取り扱いについて明示されました。改訂審査便覧によると、まず家紋といっても、既存の家紋の改変や新たな家紋の創作がされている現状があることから、現代になって新たに創作された家紋については、識別性(商標の登録要件の1つ)はあるものとしています。
 問題となるのは、伝統的な家紋であって、戦国時代の武家の家紋、神紋、社紋、寺紋、宗紋などです。これら家紋はそもそも識別性が無いということ、また国の機関や地方公共団体、宗教法人等を表すものとして著名になっている場合があるということ、地方公共団体においてイベントや祭り等の地域おこしで使用されるケースが多く、家紋と関係ない第三者が登録するのは社会公共の利益に反する、等が問題点として挙げられています。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:技術用語等のキーワードから他社の特許出願について検索を行いたいのですが、どうすればよいでしょうか?

A:J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)という名称のインターネットサイトを使用することによって、特許をはじめとする知的財産の出願や権利の内容について検索を行うことができます。このサイトでは、特許庁に蓄積されている特許、実用新案、意匠、商標の出願・登録等のデータを無料で検索・閲覧することができます。なお、管理・運営を行っているのは、工業所有権情報・研修館という名称の独立行政法人です。

 使用にあたっては、インターネット上で「J-PlatPat」、「特許情報プラットフォーム」等と入力を行うか、あるいは、特許庁のホームページからもリンクがなされています。

 例えば、キーワードから他社の特許情報を知りたいという場合には、トップページにおいて「特許・実用新案」を選択して、メニュー一覧を表示させます。その中から、「特許・実用新案検索」というメニューを選択してクリックします。これにより、キーワードを用いて検索を行う画面が立ち上がります。

 検索に際し、様々な項目について入力することが可能です。具体例として、「発明の名称」や、「請求の範囲」(権利範囲となるものです)の項目を選び、探そうとする技術用語を入力する方法があります。その他にも、「出願人」の項目を選び、競合する企業名を入力する方法もあります。これらは、ほんの一例ですが、実際に試して頂くと、使用方法の感覚が掴み易いと思います。

 ちなみに、このJ-PlatPatは、2018年3月12日にリニューアルされて、新しくて便利な機能が追加されましたので、是非、試してみて下さい。

弁理士 岡村 隆志

内容

 職務発明規定の改正には、賛否両論があり、特に、研究者・開発者には根強い反発がある。発明はあくまで自然人固有の能力の発揮によってなされるものであるため、法人帰属にすると、クリエイターの地位の低下を招き、技術開発が停滞するのを憂慮する立場からである。また、従業者は、折角創意工夫して新たな技術開発をしても特許を受ける権利が当初から会社に帰属してしまうのでは、発明意欲の減退を招く。
 この問題に我々代理人が深く関与することが難しい。なぜなら、会社の財産(職務発明)をいかに取り扱うかは私的自治の問題であり、第三者が介入すべき問題ではないからである。要は、会社側としては優秀な技術者を集めたいという思惑がある一方で、特許管理の合理化を図りたいという現実的なニーズがある。また、従業者としては、クリエイターを大切にしない会社には所属したくないし、開発意欲を削がれる仕事はしたくないというのが本音である。
 これについては、経営者と従業者(若しくは代表者)が十分な話し合いの場を持っていただいて、両者にとって納得のいく合意形成をしてほしいというのが、私の願いである。その結果が、職務発明を法人帰属とするか従業者帰属とするかは方法論に過ぎない。
 ちなみに、著作権法にも、職務著作に関する規定があり、一定の条件で法人著作が認められている(著15条)。また、映画のようにたくさんのクリエイターが関与する著作物の場合の著作者についても、著作物の全体形成に創作的に関与した者、即ち監督やプロデューサー等であることが明記されている(著16条)。

弁理士 平井 善博

内容

 家紋について商標登録しようと出願した場合、特許庁の審査官から以下のような理由に基づく拒絶理由通知が届きます。
 伝統的な家紋であって、戦国時代の武家の家紋などの周知・著名な家紋については、地方公共団体等の公的機関が、地元のシンボルとして地域おこしや観光振興のために使用することも少なくありません。このような場合に、家紋と関係ない第三者が商標登録を受けてしまうと、地域住民全体の不快感や反発を招き、地域おこし等の施策の遂行を阻害することになってしまいます。
 また、家紋の中には、他家での使用を厳しく禁じ、現代においても特定の家やゆかりの神社等を表す紋として使用され、広く一般に認識されているような場合があります。このような場合に、家紋と無関係な第三者が商標登録を受けることは、家紋が表す特定の家等の著名性や顧客吸引力に便乗することになってしまいます。
 このように、伝統的な家紋について商標登録を認めてしまうと、著しく社会的妥当性を欠き、公正な取引秩序を乱し、社会公共の利益に反することとなります。
 ただし、上記のような判断にあたっては、その家紋又はその家紋に係る人物の周知・著名性及び利用状況や、国民又は地域住民の認識、出願の経緯・目的・理由、当該家紋又は当該家紋に係る人物と出願人との関係等の事実を総合的に勘案して行われます。したがいまして、場合によっては登録可能性もあるということになります。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:他人の特許権を侵害すると、どのような処罰を受けることになりますか?

A:他人の特許権を侵害した場合には、次のような民事上・刑事上の法的措置を適用されることが考えられます。

【民事上の措置】

①差止請求
侵害行為の差止めを請求されます。併せて、侵害行為を成した製品の廃棄や設備の除却等も請求されます。

②損害賠償請求
故意・過失による侵害行為であれば、相手に生じた損害の賠償を請求されます。

③不当利得返還請求
侵害行為により不当な財産的利得を得た場合に、特許権者の損失を限度として、その利得の返還を請求されます。

④信用回復措置請求
侵害行為により相手の業務上の信用を害した場合には、新聞の謝罪広告等によって、信用回復に必要な措置を採るよう請求されます。

【刑事罰】

侵害罪
特許権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、又はその両方が科されます。なお、侵害罪は非親告罪となっていますので、告訴がなくても公訴される場合があります。

②両罰規定
法人の従業員等が業務に関し、侵害行為をした場合には、その行為者だけでなく、法人にも3億円以下の罰金刑が科されます。

 以上の措置は、特許権を侵害した場合に必ず適用されるというものではありません。しかし、特許権に代表される知的財産権は、他の財産権に比べて侵害が容易であることから、このように厳しい措置を設けて、侵害防止のための保護が図られています。

 最近では、競合他社との差別化を図り、自社ビジネスの優位性を確保するために、今まで特許取得に消極的であった企業においても特許重視に転ずる姿勢が多く見受けられます。そのため、特許権を取得することのみでなく、他人の特許権を侵害しないことにも十分な注意を払う必要があります。

弁理士 岡村 隆志

内容

 クライアントさんから出願依頼を受ける場合、願書の記載事項として、発明者は誰で、出願人は誰になるのかを必ずお伺いする。このとき、発明者個人による出願は発明者及び出願人名が大抵一致するのであるが、会社名で出願する場合、発明者としてその会社以外の人を記載する場合がある。例えば、発明完成時に着想を提供した個人や学者等(例えば甲とする)と、A社従業員乙と共同開発した発明について、発明者は甲及び乙でA社単独で出願Xをしたとする。この場合、甲の特許を受ける権利の持ち分をA社に譲渡するとの譲渡契約を正式に交わしてあればよいのであるが、これを口約束だけで行って、後で出願Xの権利化を甲に邪魔されたというケースがある。
 即ち、A社が出願Xについて出願審査請求を行って権利化を図る段階で、甲とA社との関係が悪化して、甲が審査官に対して特許を受ける権利の持ち分をA社に譲渡していない旨を上申したとする。このとき、担当審査官は、出願人A社に対して発明者甲の特許を受ける権利の持ち分の譲渡証を提出してください、との拒絶理由通知が出される。
 A社としては、甲から特許を受ける権利の持ち分譲渡を受けていない以上、譲渡証は提出できず、あらためて甲と話し合いをしてもまとまらず、出願Xについて権利化を断念せざるを得ないといったケースである。
 他にも、C社従業員丙とD社従業員丁が共同で研究開発を行って発明者に丙及び丁を記載し出願人がC社のみで出願した場合にも同様のことが起こり得る。
 たかが発明者の欄の記載として軽く見てはいけない。審査官としては発明者から特許を受ける権利を会社(法人)に譲渡されているであろうという推定のもとに審査を進めているのにすぎないのである。

弁理士 平井 善博

内容

 特許庁では、出願された商標を先登録の商標と比較して類似するかどうか判断します。
 しかし、特許庁では非類似であると判断して登録になった商標でも、先登録商標の商標権者が類似であるとして使用差止及び損害賠償を求めて裁判になった例があります。
 原告は、商標登録第3112304号「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」を所有する入浴施設の運営企業です。
 被告は、静岡県の地方自治体であり商標登録第5692791号「湯~トピアかんなみ」を所有し、日帰り入浴施設「湯~トピアかんなみ」を運営しています。
 このように、特許庁では「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」と「湯~トピアかんなみ」は非類似であると判断して、双方を登録したのです。
 しかし、原告は、被告に対し商標権侵害に基づく使用差止と損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。東京地裁では2つの商標は類似していると判断し、使用差止と1234万円の損害賠償を認めました。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:「間接侵害」という侵害形態があると聞いたのですが、どのようなものでしょうか?

A:知的財産権の侵害形態として、「直接侵害」と「間接侵害」といわれるものがあります。
 特許権の場合を例に挙げますと、「直接侵害」とは、特許請求の範囲(請求項毎となります)に記載された構成要素を全て備える製品を製造したり、販売したりといった場合に適用される通常の侵害形態です。
 これに対して、「間接侵害」とは、特許請求の範囲に記載された構成要素を全て備えていない場合であっても、侵害に準じる行為として禁止されるものです。具体的に説明しますと、例えば、テレビが特許発明品であった場合に、そのテレビの組立てに必要な一切のパーツをセットとして販売するような行為は、テレビそのものを製造したり、販売したりする訳ではないため、直ちに特許権侵害(直接侵害)とはなりません。しかしながら、テレビの組立てセットは、そのテレビを組立てること以外に使用することは考えられず、いずれはその組立てセットが組立てられることによって、特許権侵害(直接侵害)となるテレビが完成することとなります。したがって、特許法においては、侵害品(直接侵害品)の成立につながる一定の行為を侵害行為とみなして禁止しようとする考え方が採られています。これが「間接侵害」といわれる侵害形態です。
 特許権を例として説明しましたが、実用新案権、意匠権、商標権にも、同様に「間接侵害」に該当する行為が規定されています。なお、「間接侵害」行為を行った者は、「直接侵害」と全く同様の処罰対象となりますので、他社の知的財産権に対しては、「直接侵害」に該当しないことだけではなく、「間接侵害」に該当しないように留意することも重要となります。

弁理士 岡村 隆志

内容

 複数の会社が共同研究開発した発明について、契約に基づき共同出願することがある。自社の技術の強みと他社技術の強みを補完しあってより良い製品を生み出す、というようにアライアンスが行われることは好ましいことである。
 しかしながら、A社とB社が共同で特許出願する場合、将来取得する特許権もA社とB社の共有ということになる。この特許権の共同所有が、将来互いの企業活動を縛り合う関係になるおそれがある、ことには注意が必要である。
 先ず、特許製品の実施(製造販売等)をするのは、特約がない限り、原則として自由に行える。よって、A社とB社は自由に特許製品を作って売ることができる。しかしながら、現実はそう甘くなく、大概のケースでは同業他社に売ってはならない、のような契約上の縛りがかかることが多い。例えばA社が最終製品を製造できない部品メーカーの場合、最終製品を製造できるB社が買ってくれない限り、特許製品を売ることができなくなる。それでは、開発費用が回収できなくなるおそれがある。
 よって、A社としては開発費用を回収する手立てを契約上担保する必要がある。例えば、競合他社への販売を一切禁止するのではなく、事前に互いの承認を得るようにする、などの可能性を残すか、B社が特許製品を製造する場合、A社製造の部品を優先的に購入するなど、何らかの工夫が必要であろう。さもなければ、実施能力に差がある会社どうしの場合、大企業よりに事が運んでしまい、研究開発型の中小企業の開発費用が回収できなくなるケースが想定されるからである。
 また、権利共有の場合、自社の持ち分を他社に譲渡したり、他社にライセンスしたりする場合、他の共有権利者の承諸を要する点も留意が必要である。

弁理士 平井 善博

内容

 伝統的な価値を有する文化的な財産、例えば工芸品、遺跡、演劇、音楽など(これらを文化的所産等といいます)、が商標登録出願された場合にはどのように取り扱われるでしょうか。
 そもそもこれら文化的所産等は、国家としても貴重な資産や資源であり、各地域においても観光資源として地域おこしなどが行われている現状があります。したがって、特許庁では公益的観点からこれらに独占権たる商標権を付与すべきか検討することになります。
 例えば「大般若長光」は国宝に指定されている刀ですが、「大般若長光」という文字で指定商品「刀剣、おもちゃの刀剣」、指定役務「刀剣の展示」等を指定している場合には、商品の品質又は役務の質を表すものとして拒絶されます。
 「クフ王のピラミッドの図形」は、世界遺産登録されている著名な遺跡ですが、これを指定役務「旅行の手配」に指定している場合には、役務との関係において需要者は旅行の目的地を表したものと判断するので、役務の質を表すものとして拒絶されます。
 一方、「アンコールワット」は世界遺産登録されていて著名な遺跡ですが、これを指定商品「電動ドリル」を指定した場合には、商品の品質とは全く関係ないため、登録可能性があるということになります。 
 このように、文化的所産に関する商標の審査においては、文化的所産の知名度や、文化的所産と指定商品又は指定役務との関係性、指定商品又は指定役務の取引の実情を勘案して判断されます。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:特許出願を行う際の「先行技術文献情報の開示制度」について教えて下さい。

A:「先行技術文献情報の開示制度」とは、平成14年9月1日から施行された改正特許法において導入された制度です。制度の概略としては、特許出願を行う際に、特許を受けようとする発明に関連する出願・文献等の先行技術(自らのものか他者のものかは問いません)について出願人が知っている情報(これを「先行技術文献情報」と呼びます)を、出願書類(明細書)に明示しなければならないという制度です。この制度は、出願人が知っている先行技術文献情報を自ら特許庁の審査官に開示することによって、より迅速かつ適確な審査の実現を図ることを目的として導入されました。この制度が導入された現行の特許法においては、先行技術文献情報の開示がない場合には、まず審査官から出願人に通知を行って開示が促されます。それでもなお開示がされない場合には出願が拒絶される扱いとなります。ただし、このような扱いは、該当する全てのケースに対して一律に適用される訳ではなく、審査官が必要と認めた場合にのみ行うこととされています。ここで、どの程度の情報を明示すべきかという点が疑問になろうかと思います。実務上は、その発明が解決しようとする課題を有していた従来技術を数件程度記載するのが標準的となっています。具体的には、公開特許公報等の番号を記載したうえで、その技術内容について記載します。なお、発明の技術分野によっては、関連すると思われる従来技術の公開特許公報等が非常に多く存在する場合もあるかとは思います。しかしながら、そのような場合でも、公開特許公報等を数十件、数百件といったレベルで記載しなければならないということはありません。

弁理士 岡村 隆志

内容

 出願発明が特許になるか否かは審査官の審査の結果判明するのであるが、この場合、権利客体として判断される項目は大きく3つである。1つ目は産業上利用できる発明であること、2つ目は新しい発明である(新規性を有する)こと、3つ目は公知発明から容易に発明できたものでない(進歩性を有する)こと。
 産業上利用できる、であるから現実に利用されることは必要ではなく可能性で足りる。シミュレーションの結果でもよいし、所謂机上の空論でもよい。ビジネス関連発明は、いまだ現実となっていないが構想として提案されるケースが多い。また、遺伝子配列などの新たに発見されたものも具体的な利用形態が示されるとこの要件をクリアすることができる。一方、病気の治療方法に関するものは産業上の利用可能性は無いが、例えば再生医療の分野では軟骨再生用移植材のように治療行為に用いられる細胞シートのような物は、産業上の利用可能性が認められている。
 また、発明は創作物であるため客観的な新しさが必要である。即ち、出願前に発明が世界のどこかで、公知・公用・文献等公知になっていれば、新しさは失われる。日常的に使えた物が、後から突如特許が成立して使用できなくなるのは極めて不都合である。新しさは公知発明との同一性で判断され、完全同一だけでなく、実質的同一な場合も含まれる。実質的同一とは、公知発明の構成に対して周知・慣用技術の付加、削除、転換等であって新たな効果を奏するものではない場合をいう。
 インターネット等の通信網が発達し、J-PlatPatのような検索サイトに蓄積されたデータ量が相当ある今日では、同一発明が公知になっていないか、出願前に予めネットワークで調査することをお勧めしている。

弁理士 平井 善博

内容

 文化的所産が商品や包装に対してデザインや装飾として使用される場合もあります。
 例えば国宝に指定されている「紙本著色花下遊楽図の図形」を指定商品「被服、清酒」を指定して商標登録出願した場合には、被服の取引業界では商品のデザインとして絵画を用いることが一般的であり、また清酒の取引業界では商品のラベルや包装に絵画を用いることが一般的であるため、需要者にはデザインの一種であるとの認識にとどまり、識別性が無い(商標法3条1項6号違反)として拒絶されます。
 また、「ウエストミンスター大寺院」の文字、「東大寺(立体的形状)」、「賀茂神社の神紋(図形)」などを商標登録出願した場合、これらは世界遺産登録等、公の機関により登録や指定がなされている文化的所産を表す標章であり、特定の宗教法人を表す標章として著名なものであるため、商標法4条1項6号違反として指定商品又は指定役務にかかわらず拒絶されることになります。
 なお、文化的所産には、その著名性により強い顧客吸引力を有するものもありますが、文化的所産に何ら関係のない第三者がその文化的所産の顧客吸引力にあやかって商標登録しようとする場合、一般的道徳観念や国際信義に反するものと判断され、公序良俗違反(商標法4条1項7号違反)として拒絶される可能性もあります。
 このように、文化的所産を商標登録しようとする場合、状況により複数の拒絶理由が通知されることもあります。

弁理士 傳田 正彦

内容

Q:他者の特許権を侵害してしまった場合の影響について教えて下さい。

A:他者の特許権を侵害してしまった場合には、刑事罰と民事上の訴追を受ける可能性があります。具体的には、特許法において「特許権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」との規定があります。これに加えて、「法人の代表者は、その従業者が特許権侵害の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して3億円以下の罰金刑を科する」との規定もあります。ただし、これらの規定は、侵害と認められた場合に、必ず適用されるという訳ではありません。ちなみに、知的財産権の侵害事件において刑事罰が適用されるケースとしては、商標権に関する偽ブランド品の販売行為などが挙げられます。一方、民事上の訴追について、具体的には、侵害行為すなわち侵害品の製造・販売に対する差止請求や、侵害行為により受けた損害の賠償請求などが主となります。事業を継続していくうえで、損害賠償を請求されることは、当然、受ける影響も大きいですが、それ以上に影響が大きいのは、事業すなわち製品の製造・販売自体が停止させられる差止請求であるといえます。製品の製造・販売を行うことができなければ、収益を上げる手段がなくなってしまう訳ですから、それまでに投資した研究開発費・設備費の回収ができないのはもちろんのこと、事業が継続できなくなる危機につながる可能性も少なからず生じてきます。同時に、事件が新聞などに掲載されれば、企業としてのイメージダウンも避けられません。このように多大な影響を受けることとなる特許権侵害を避けるために、常に他社の権利を注視していくことが重要となります。

弁理士 岡村 隆志

内容

 出願発明が特許になるか否かで、最もハードルが高い要件と思われるのが、公知発明から容易に発明できたものか否かである(進歩性の有無)。そもそも、何故、出願発明に進歩性が必要かというと、法は発明の技術レベルが自然発展的な進歩に止まらず飛躍的な進歩を遂げることを期待したのである。また、公知発明と非同一でさえあれば特許になるのでは、特許権が乱立してしまい、かえって産業活動の妨げになるためである。
 公知発明等から出願発明を容易に発明できたか否かは、極めて恣意的な要素が入り込む余地があり、出願人側に審査官の判断に不満が残る場合が多い。審査官の立場からよく言われるのは、出願発明が構成要件A及びBを備えている場合、構成要件Aが記載された公知文献1と構成要件Bが記載された公知文献2を探してきて、これらを組み合わせると出願発明に容易に想到する、というものである。この指摘が妥当か否かは、所謂、審査基準でいう動機付けができるか否かにかかっている。審査官は、公知技術の中から、動機付けに最も適した一の引用発明を選んで 主引用発明とし、所定の手順により、主引用発明から出発して、他の引用発明(副引用発明、技術常識等)を参照して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。論理付ができれば進歩性が否定され、できなければ進歩性が肯定される。主引用発明に副引用発明を適用する動機付けとなる要素として(1)技術分野の関連性(2)課題の共通性(3)作用、機能の共通性(4)引用発明の内容中の示唆が考慮され、主引用発明からの設計変更等、先行技術の単なる寄せ集めであれば進歩性が否定される。

弁理士 平井 善博

内容

 商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年をもって終了することが商標法によって定められています。そして存続期間は商標権者の更新登録の申請により更新することができます。
 更新登録の申請は、存続期間の満了6か月前から満了の日までの間に行わなくてはなりません。このとき、弁理士等の代理人によって商標登録手続きをしていた場合には、代理人が期限を管理していることが一般的であり、更新時期が近付いてきたことをお知らせしてくれると思います。しかし、特許庁からは更新期限のお知らせはしてくれません。つまり、代理人無しで出願した場合、自分で更新期限の管理をしなくてはならず、その後の期限管理が非常に重要になってきますので注意が必要です。
 なお、更新期限を過ぎても存続期間満了から6か月以内であれば、更新に必要な印紙代を倍額納付すれば更新は認められます(いわゆる倍額納付期間)。この倍額納付期間を過ぎてしまうと、商標権を更新する手立てはなく、商標権は消滅してしまいます。例外として、倍額納付期間経過後であっても、期間中に更新できなかった正当な理由があり、その理由がなくなった日から2か月以内で且つ倍額納付期間経過後6か月以内であれば、更新が認められます。これは主に震災や台風などの災害時において適用されますが、それ以外でも想定外のことが起こったときは認められる場合があるようです。

弁理士 傳田 正彦

 

内容

 進歩性判断において、近年動機付の点で重視されているのが課題の共通性である。出願発明に対して例えば公知文献1と公知文献2とが技術分野が関連するだけで組み合わせ容易とするのは早計であり、そもそも互いに共通の課題を有しているか否かは重要な視点となり得る。発明は技術的課題を解決手段であり、作用効果の共通性にもつながると思われるからである。特にコンピュータ関連発明としてとらえられるビジネス関連発明や、AI、人口知能、IoT等は、通常使用している装置がコンピュータや通信インフラである場合が多い。そのような発明に、構成要件の相違を見出そうとすると、ハードウェアの構成より、むしろソフトウェアによるデータ処理に特徴が見いだされる場合が多い。しかるに公知文献との相違を主張する場合、ソフトウェアの処理の相違により引用文献に期待できない○○のような作用効果が得られる、と主張する機会が増えるように思われる。また、審査官の公知文献の引用の仕方が、出願発明の構成要素に対応して引用される場合が多く、出願人としては何を発明しても容易と認定される、と言いたくなる気持ちもわかる。
 しかしながら、構成要素自体は公知であっても構成要素同士の組み合わせ方が従来にない斬新なものであれば、進歩性はクリアできるのである。例えば、シャープペンと消しゴムが公知であれば、消しゴムをシャープペンの持ち手側端部に嵌め込んで、消しゴム付きシャープペンとすることは容易であると思われる。しかしながら、消しゴムをスクリュー付きの容器に入れて一方向に回すと消しゴムが持ち手側端部より露出し反対方向に回すと持ち手側端部内に収納されるように組み付けたら、これは構成要素が公知であっても容易想到であるとは言えないと思われる。

弁理士 平井 善博

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