知財関連コラム

特許実務雑感40

 特許法第36条4項1号(所謂実施可能要件)違反の拒絶理由が指摘された場合、出願から1年以内であれば、国内優先権主張出願をして、舌足らずな明細書の記載を補充し足り、補充資料を追加したりして、明細書の記載を補うことで解消することができる。しかしながら、出願から1年6月経過しており、出願内容がすでに出願公開されている場合には、あとから明細書の記載を補充する手段はなくなる。再出願しても先の出願が公開されているから、新たな改良事項を取り込まない限り、先の出願内容を生かすことが難しくなる。明細書の記載が不十分な部分を意見書で釈明しようとしても、明細書に開示されない事項について権利を付与できないと厳しい見方をする審査官が多い。このことからも、明細書の実施例は可能な限り充実させておくことが好ましい。たとえ当業者の常識や自明事項であっても迷ったら記載するぐらいの覚悟が好ましいといえる。ノウハウに該当する事項や発明のポイント以外の技術事項は、あっさりと記載しがちであるが、当業者が合理的な疑義を抱かない程度の記載には注意を要する。少なくとも、先行技術に対応する公報番号とその内容に言及しつつその課題を解決するため本願発明がなされたとの流れで説明するくらいの気を使う必要があると思われる。そうでなければ、先行技術に記載した技術事項が当業者の常識の範囲内であるとは言えない気がします。もちろん、ノウハウや設計事項までを開示するのは、出願発明の模倣盗用を容易化するため好ましくありません。これとは対称的に、特許請求の範囲の記載は、明確性違反の拒絶理由はありますが、限定解釈を避けるため可能な限り無駄な記載を省いた方がよいと思われます。

弁理士 平井 善博

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