知財関連コラム

第2回 平成28年4月法改正の概説

平成28年4月1日付で改正特許法が施行されます。
主な改正事項は2つあり、1つ目は職務発明規定(特許法35条)の改正であり、2つ目は特許法条約(PLT)実施のための改正です。

(1)職務発明規定の改正
従前より、特許を受ける権利は発明完成と同時に発生し、発明者に帰属するのが原則(特許法29条1項柱書)です。
例外として、職務発明に該当する場合には、従業者等(発明者)は使用者等に予約承継(譲渡)することができ、この場合、従業者等(発明者)は、対価請求権が認められていました(原始従業者帰属)。

この職務発明規定を、本年4月1日以降は、社内規定を改変することで、使用者等の選択によって、特許を受ける権利を原始的に使用者等に帰属させられるように変更されます(原始使用者帰属)。
また、使用者等が特許を受ける権利を取得する場合には、従業者に相当の経済上の利益を受ける権利が認められます。経済上の利益の例としては、
1)社費による留学
2)ストックオプション(株式購入権)付与・金銭的処遇の向上を伴う昇進、昇格
3)法定日数を超える有休休暇
4)自らの発明について会社からライセンスの供与等が例示されています。

更に、従業者が受ける相当の経済上の利益を定める手続きの合理性を判断するために考慮すべき事情につき、経済産業大臣が定める指針(ガイドライン)として以下の項目が挙げられています。
・使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況
・策定された基準の開示の状況
・相当の経済上の利益の内容の決定について従業者等からの意見の聴取の状況

改正法施行後は、従来法のように原始従業者帰属とするのか、改正法のように原始使用者帰属とするのか、いずれかを選択できるようになります。この場合、社内規定の改定を伴いますから、各社において、いずれが好ましいか判断を委ねられることになります。選択に際して特に考慮すべき事項は以下のように考えられます。
1)会社特許管理負担(発明者補償手続、訴訟リスク)の大きさ
2)発明者から会社への特許を受ける権利の譲渡手続、共同発明者による特許を受ける権利の会社譲渡への同意手続をどのようにとらえるか

改正法のメリットは、特許を受ける権利の帰属に関する事後的な争いが減るということだろうと思われます。会社への譲渡や共同発明者の同意などが得られていない場合には、権利に瑕疵が発生するおそれがあります。但し、発明完成と同時に特許を受ける権利が会社に帰属するわけですから、従業者等のモチベーションを高く維持しないと会社の競争力を削ぐことにつながります。社内規定が原始従業者帰属か原始使用者帰属のいずれを選択するにせよ、経済産業大臣が定める指針(ガイドライン)に沿って手続きの合理性を判断されるわけですから、これを見直す機会ととらえるのがよろしいかと思われます。

(2)特許法条約(PLT)実施のための規定の整備
我が国が特許法条約(PLT)に加盟したために、条約を遵守するための国内法の改正になります。
1)指定期間(特5条1項)の延長(準実2条の5,1項) *拒絶理由通知に対する意見書・補正書提出期間:期間延長請求書の提出により省令で定める期間延長される
2)外国語書面出願の翻訳文提出期間(優先日から1年4月+省令で定める期間)
3)パリ条約による優先権主張手続(優先日から1年4月+省令で定める期間)
4)特許管理人の選任の届出(国内処理基準時の属する日後省令で定める期間)
5)特許出願の日の認定及び手続補完制度の創設
 ①出願を意図する表示
 ②出願人を特定することができる表示
 ③明細書と外見上認められる部分があること
以上①~③を満たした場合には、出願受理日を出願日と認定(特38条の2,1項)いずれかが充足されない場合には特許庁長官が期間を指定して補完できる旨を通知、手続補完書を提出⇒手続補完書受理日を出願日に認定
6)特許料等の改定 特許出願料・特許料一律10%引き下げ
商標設定登録料25%引き下げ
更新登録料20%引き下げ

上記項目のうち、1)拒絶理由通知に対する意見書・補正書提出期間が、理由の如何を問わず期間延長請求書の提出で伸びるのは、実務上メリットが大きいと思われます。但し、手数料の支払いを伴いますから、これに安易に頼るのは、避けるべきでしょう。
また、6)特許料等の支払い期限がH28年4月1日以降となる場合には、納付を4月1日以降とする方が安価な手続き費用で支払うことができます。

–Yoshihiro Hirai

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