知財関連コラム

第5回 商標判例(湯ーとぴあ事件)

日帰り入浴施設について用いられた「湯~とぴあ」という商標の商標権侵害事件について簡単に紹介します。
原告は、商標登録 第3112304号「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」を所有する入浴施設の運営企業です。

yutopia1

被告は、静岡県の地方自治体であり商標登録第5692791号「湯~トピアかんなみ」を所有し、日帰り入浴施設「湯~トピアかんなみ」を運営しています。

yutopia2

原告は、被告に対し使用差止と損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、東京地裁では使用差止と1234万円の損害賠償を認めました。
本判決については種々の論点がありますが、ここでは原告商標と被告標章が類似しているかどうかという類否判断についてのみ、簡単に説明します。
ちなみに、被告標章「湯~トピアかんなみ」も商標登録されているのですから、特許庁では、「ラドン健康パレス/湯~とぴあ」と「湯~トピアかんなみ」とは非類似であると判断したわけです。

この点、東京地裁では、類否について次のように判断しました。

原告商標については、外観上、上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯~とぴあ」の部分とから成る結合商標と認められるが、その文字の色及び大きさの違い、その配置態様によって、一見して明瞭に区分して認識されるものであるから、これらの二つの部分は分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできないので、全体としての称呼、観念のほかに「湯~とぴあ」の部分から「ユートピア」の称呼と「理想的で快適な入浴施設」程度の観念が生じうる、としています。

被告標章については、上段の「湯~トピアかんなみ」の部分は一行で同様の文字でまとまりよく記載されているものの、黒色の「湯~トピア」と緑色の「かんなみ」の2つの部分によって構成されていることが容易に認識され、この二つの部分は分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできないと判断し、また前方の「湯~トピア」の部分は「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、出所識別標識として強い印象を与える部分であるということができるが、他方、後方の「かんなみ」の部分は、「函南」という地名若しくは町名を指していることは明らかであるから、入浴施設が所在し、その役務が提供される場所を表すものにすぎず、自他役務を識別する機能が弱いと判断しています。

そうすると「かんなみ」の部分は「湯~トピア」の部分と一体となって上記の称呼及び観念が生じ得るとしても「かんなみ」の部分それ自体からは独自の出所識別標識としての称呼及び観念を生じないというのが相当であり、したがって被告標章の上段部分からは、その全体に対応した称呼及び観念とは別に「湯~トピア」の部分に対応した「ユートピア」という称呼及び「理想的で快適な入浴施設」という程度の観念も生じる、としています。

つまり、被告商標の「湯~トピアかんなみ」は、「湯~トピア」と「かんなみ」に分離され、原告商標の「湯~とぴあ」と分離された被告標章「湯~トピア」とが比較されて、称呼及び観念が同一であるから、類似であるという結論に至ったわけです。

上記の裁判所の判断には、疑問を感じる部分もありますが、実際の類否判断においては、特許庁の判断と裁判所の判断が異なる場合もある、ということがおわかりいただけたかと思います。
なお、この判決を不服とした被告は控訴しました。またの機会に本事件の控訴審の判決を紹介したいと思います。

–Masahiko Denda

トップへ戻る