知財関連コラム

特許実務雑感17

 また、進歩性が肯定される要因として、有利な効果、阻害要因(例‥副引用発明が主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような場合)等がある。審査において発明の進歩性が認められるために、有利な効果を主張することは従前から行われていた。出願発明と公知技術との構造上の相違のみならず、これを補強するかたちで引用支献に比べて有利な効果を有する旨を主張するのである。特に、コンピュータ関連発明では、この主張が有効となるであろうことは前回お話したとおりである。データ処理の手法やコンテンツの相違により、得られる作用効果が異なる場合が多いからである。ただし、この主張は米国の審査においては、無視されるおそれが高いことも留意されたい。米国は、物の発明はあくまで構造どうしの対比で自明性(進歩性に対応する要件)を判断している。発明の進歩性が認められる他の要素として、阻害要因の有無がある。例えば公知文献1が高温領域で有効である公知技術Aを開示し、公知支献2が低温領域で有効である公知技術Bを開示しているのに、公知文献1と公知文献2を組わせれば本願発明に容易に想到するというものである。このような場合、公知技術Aと公知技術Bとの組み合わせる動機付けは通常無いから、阻害要因が認められ得る。ある無効審判事件において、無効理由として挙げた公知文献1と公知支献2であるが、権利者側が互いに技術分野が異なるため組み合わせることなどできない、との理由を阻害要因として主張した大手事務所の代理人に遭遇したことがある。審判官より権利者側に向かって、それが阻害要因ですか?とたしなめられていたのを記憶している。

弁理士 平井 善博

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