知財関連コラム

特許実務雑感16

 進歩性判断において、近年動機付の点で重視されているのが課題の共通性である。出願発明に対して例えば公知文献1と公知文献2とが技術分野が関連するだけで組み合わせ容易とするのは早計であり、そもそも互いに共通の課題を有しているか否かは重要な視点となり得る。発明は技術的課題を解決手段であり、作用効果の共通性にもつながると思われるからである。特にコンピュータ関連発明としてとらえられるビジネス関連発明や、AI、人口知能、IoT等は、通常使用している装置がコンピュータや通信インフラである場合が多い。そのような発明に、構成要件の相違を見出そうとすると、ハードウェアの構成より、むしろソフトウェアによるデータ処理に特徴が見いだされる場合が多い。しかるに公知文献との相違を主張する場合、ソフトウェアの処理の相違により引用文献に期待できない○○のような作用効果が得られる、と主張する機会が増えるように思われる。また、審査官の公知文献の引用の仕方が、出願発明の構成要素に対応して引用される場合が多く、出願人としては何を発明しても容易と認定される、と言いたくなる気持ちもわかる。
 しかしながら、構成要素自体は公知であっても構成要素同士の組み合わせ方が従来にない斬新なものであれば、進歩性はクリアできるのである。例えば、シャープペンと消しゴムが公知であれば、消しゴムをシャープペンの持ち手側端部に嵌め込んで、消しゴム付きシャープペンとすることは容易であると思われる。しかしながら、消しゴムをスクリュー付きの容器に入れて一方向に回すと消しゴムが持ち手側端部より露出し反対方向に回すと持ち手側端部内に収納されるように組み付けたら、これは構成要素が公知であっても容易想到であるとは言えないと思われる。

弁理士 平井 善博

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