知財関連コラム

特許実務雑感6

 特許請求の範囲に物の発明にも関わらずプロダクトバイプロセスクレームが記載されていた場合、拒絶理由通知が届くことは前回お話した通りである。
 その場合の対応について(1)該当する請求項の削除、(2)該当する請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正、(3)該当する請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする補正、(4)不可能・非実際的事情について意見書等による主張立証、以上の4つの対応が指南されている。これらのうち(1)~(3)の対応について格別な疑義がない。しかしながら、(4)の主張立証は疑問が残る。不可能・非実際的事情とは、出願時において物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったこと、又は特許出願の性質上迅速性等を必要とすることから鑑みて物の構造又は特性を特定することに著しく過大な経済的支出又は時間を要することに該当すること、が挙げられている。
 このような主張立証を意見書等で行うことで仮に特許されたとしても、その後に他人の正当権原なき実施行為対して権利行使できるのだろうか?権利行使する場合には、請求項に記載された発明と侵害者実施品の構成を対比し、すべての構成要素が含まれているか否か検証することが行われる。
 そもそも物の構造又は特性を特定できないものについてどのように侵害論を展開すべきなのか、個人的には甚だ疑問なのである。すべては最高裁判決の影響を受けてのことなのだが、プロダクトバイプロセスクレームについての権利解釈として画一的に物同一説を採用したことに起因すると思われる。即ち、製法的記載は無視し、あくまで物の構成として同一なら同一と判断する手法である。
 実は最高裁に上告される前の知財高裁での判決こそが、最も柔軟で無理のない解釈ではないか、というのが私の個人的な見解である。

弁理士 平井 善博

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